#035-0016「ふりしきる桜のしたで」 ― 2009年06月01日 18時39分40秒
四十年も前になるだろう、一人の田舎者が青雲の志と期待を胸に秘めて東京に人生の旅立ちをしたのはつい此の前の様だ。始めて見る大都会其の規模の大きさと素晴らしい建築物には圧倒される。嬉しい!私の胸ははち切れんばかりに膨らんで、何か良い事が起きそうで高鳴るのを覚える。当時クラス中大学に進学する者は二名ほどで、殆ど全て就職していた。私も例にもれず、工業高校機械科専攻一端のエンジニアだと自負していたのである。
私のクラスでも進学した者は二名だけだった。一人は私、そしてもう一人は背の高い美青年で名を匠と言った。偶然にも二人は同じ大学に合格した。匠と私は夜汽車に揺られ朝霧の漂う上野駅に降り立つ。坂を上るとそこは桜で満開だった。なんと美しい風景!しかし綺麗なものは桜だけではなかった。いや、やはり美しきは桜と言うべきだろうか。丘には一人の女性がたたずんでいた。それが私達と桜との出会いだった。
「匠くん負けないでっ!!!」
4年後、匠は武道館でライバルとの決勝戦を演じていた。
応援席最前列には、私と、桜の姿があった。
私は匠の親友であり、桜は恋人であった。
武道館での決勝戦、それは死闘だった。
こんなに激しく、熱く、火の出るような試合を私は見たことがない。
匠の熱い魂と、それに負けんとする男との、気迫のぶつかり合い。
熱気で武道館内に濃霧が発生したかと思わせた。
数ヶ月前、私は大学を卒業した。
しかし、この3人には卒業なんてものは無かった。
いや、そう思っていたのは私だけだ。
別れの言葉は記憶にはない。風が強かった。桜並木がごうごうと枝を振り、花びらが渦を巻いた。あの日私は、恋人と親友を同時に失ったのだった。
年月は全てを押し流した。それでもここに立つと思い出さずにはいられない、もう還らない時を。若かった我々を。
「おじいちゃーん」
満開の桜の下、孫が手を振る。今行くよと踏み出した足先に、薄桃色の花びらがはらはらと舞い降りた。
(文字数:800)
私のクラスでも進学した者は二名だけだった。一人は私、そしてもう一人は背の高い美青年で名を匠と言った。偶然にも二人は同じ大学に合格した。匠と私は夜汽車に揺られ朝霧の漂う上野駅に降り立つ。坂を上るとそこは桜で満開だった。なんと美しい風景!しかし綺麗なものは桜だけではなかった。いや、やはり美しきは桜と言うべきだろうか。丘には一人の女性がたたずんでいた。それが私達と桜との出会いだった。
「匠くん負けないでっ!!!」
4年後、匠は武道館でライバルとの決勝戦を演じていた。
応援席最前列には、私と、桜の姿があった。
私は匠の親友であり、桜は恋人であった。
武道館での決勝戦、それは死闘だった。
こんなに激しく、熱く、火の出るような試合を私は見たことがない。
匠の熱い魂と、それに負けんとする男との、気迫のぶつかり合い。
熱気で武道館内に濃霧が発生したかと思わせた。
数ヶ月前、私は大学を卒業した。
しかし、この3人には卒業なんてものは無かった。
いや、そう思っていたのは私だけだ。
別れの言葉は記憶にはない。風が強かった。桜並木がごうごうと枝を振り、花びらが渦を巻いた。あの日私は、恋人と親友を同時に失ったのだった。
年月は全てを押し流した。それでもここに立つと思い出さずにはいられない、もう還らない時を。若かった我々を。
「おじいちゃーん」
満開の桜の下、孫が手を振る。今行くよと踏み出した足先に、薄桃色の花びらがはらはらと舞い降りた。
(文字数:800)
コメント
_ just4U ― 2009年06月01日 19時52分44秒
_ ヴァッキーノ ― 2009年06月02日 12時20分44秒
最後のくだりが爽やかでした。
桜のある場面を絵にしたら
こんな感じなんだろうって思いました。
現実の(ボクの周りの)桜は公園とかにしかなくて、酔っ払いがドンチャン騒ぎしてるんですけども(笑)
あ、タイトルが降りしきる桜なので
>はらはらと
だと、少し桜の量が足りないような
印象をうけました。
桜のある場面を絵にしたら
こんな感じなんだろうって思いました。
現実の(ボクの周りの)桜は公園とかにしかなくて、酔っ払いがドンチャン騒ぎしてるんですけども(笑)
あ、タイトルが降りしきる桜なので
>はらはらと
だと、少し桜の量が足りないような
印象をうけました。
_ 匿名 ― 2009年06月04日 12時58分20秒
投稿先を間違えている様ですよ! これはリレーの文章です。 最終回だから大目で見よう。
_ 百吉 ― 2009年06月04日 13時08分25秒
あれ、そうなんですか?
いや、ひとつの文章としてもすてきだと思いますよ。
力強く、されど繊細な表現が良かったです。
いや、ひとつの文章としてもすてきだと思いますよ。
力強く、されど繊細な表現が良かったです。
_ つとむュー ― 2009年06月04日 22時00分38秒
匿名さん、リレー作品と気づいていただきありがとうございます。
そうです。この作品は、第21回文章リレー(最終回)で、最初にゴールした作品です。起、承、転、結の4人によって、バトンが引き継がれています。パート分けなどについては以下をご参照下さい。
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2009/06/01/4334425
なお、今回の文章塾に投稿された以下の作品も、リレー作品です。
#035-0019「別れ~旅立ち~結び目」
http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/2009/06/01/4335312
この作品は、同リレーで2番目にゴールした作品です。
この2つのリレー作品については、文章塾のお気に入り投票の結果によって最優秀作品を決定する予定です。皆様の投票をお待ちしています。
そうです。この作品は、第21回文章リレー(最終回)で、最初にゴールした作品です。起、承、転、結の4人によって、バトンが引き継がれています。パート分けなどについては以下をご参照下さい。
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2009/06/01/4334425
なお、今回の文章塾に投稿された以下の作品も、リレー作品です。
#035-0019「別れ~旅立ち~結び目」
http://bunshoujuku.asablo.jp/blog/2009/06/01/4335312
この作品は、同リレーで2番目にゴールした作品です。
この2つのリレー作品については、文章塾のお気に入り投票の結果によって最優秀作品を決定する予定です。皆様の投票をお待ちしています。
_ ウラジーミル・コマ子 ― 2009年06月05日 14時08分16秒
リレー作品はコメントしにくいですね。つながりがいろんな意味で妙だったとしてもそれを作者たちのせいにできないですから。それでも、個人技で局面を打開してハーモニーを保ちつつ、たとえば桜の下というようなゴールにたどりつけば、喜びもひとしおだと思います。ぼくも駅伝のほうが好きでした。
_ おさか ― 2009年06月06日 19時14分19秒
桜はいつも出会いと別れのシンボルのような気がします
日本人の心ですねえ♪
日本人の心ですねえ♪
_ 木の目 ― 2009年06月06日 22時16分51秒
これ、リレーだったんですね。
朝日ネットの創成期の電子フォーラムに電脳作家クラブと言うのがあって、そこで作家たちがリレーをやっていたんですよ。文芸誌でもそういう企画がありましたねぇ。文章塾で、ちょっとああいうのをやってみたくて、声をかけたら、つとむューさんがここまでひっぱってくれたんですよね。
本当に感謝しています。
朝日ネットの創成期の電子フォーラムに電脳作家クラブと言うのがあって、そこで作家たちがリレーをやっていたんですよ。文芸誌でもそういう企画がありましたねぇ。文章塾で、ちょっとああいうのをやってみたくて、声をかけたら、つとむューさんがここまでひっぱってくれたんですよね。
本当に感謝しています。
_ よっぱ ― 2009年06月09日 17時15分13秒
つとむューさん、長い間文章リレーの旗振りをお疲れ様でした。一度も参加しなくてごめんなさいm(__)m
_ マロ ― 2009年06月13日 00時29分04秒
そっか、これはリレーですね。
2回くらいしか参加できなかったけれど、楽しかったですよ、リレーは。
2回くらいしか参加できなかったけれど、楽しかったですよ、リレーは。
_ 矢菱虎菱 ― 2009年06月13日 05時29分03秒
まとめようとされた努力はもちろん伝わってきますが・・・いやもうこの脈絡の不自然さは芸術もんでしょう。全てを降りしきる桜吹雪に帰しましょう!
あらためて文体の多様さ、書き手の個性や感性の違いを感じさせてくれる見本のような文章です。
一人一人の投稿作品を見ても気がつきにくい文体の違いをこうやってリレー形式でつないで見せていただくと本当によくわかります。
そういう意味で楽しみました!
あらためて文体の多様さ、書き手の個性や感性の違いを感じさせてくれる見本のような文章です。
一人一人の投稿作品を見ても気がつきにくい文体の違いをこうやってリレー形式でつないで見せていただくと本当によくわかります。
そういう意味で楽しみました!
_ リレー最優秀作品 ― 2009年06月15日 22時41分54秒
つとむューです。
第35回文章塾のお気に入り投票の結果、この作品を、第21回文章リレー(最終回)の最優秀作品といたします。
上のコメントにも書きましたが、このリレー作品は、起、承、転、結の4人によって完成いたしました。パート分けなどについては以下をご参照下さい。
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2009/06/01/4334425
リレーに参加された方は、ここのコメント欄にて正体を明かして下さい(「起」を書かれたukihaji-12さんは、そのままukihaji-12さんだと思いますが・・・)
ちなみに、「承」は僕が書きました。ukihaji-12さん、ポカをやってしまい申し訳ありませんでした。
文章リレーの実験は、これで最終回です。こちらも長い間、ありがとうございました。
でんち様、このような場を設けていただきありがとうございます。リレーはとても楽しかったです。そして、いろいろと勉強になりました。リレーに参加された方々、本当に感謝、感謝です。
第35回文章塾のお気に入り投票の結果、この作品を、第21回文章リレー(最終回)の最優秀作品といたします。
上のコメントにも書きましたが、このリレー作品は、起、承、転、結の4人によって完成いたしました。パート分けなどについては以下をご参照下さい。
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2009/06/01/4334425
リレーに参加された方は、ここのコメント欄にて正体を明かして下さい(「起」を書かれたukihaji-12さんは、そのままukihaji-12さんだと思いますが・・・)
ちなみに、「承」は僕が書きました。ukihaji-12さん、ポカをやってしまい申し訳ありませんでした。
文章リレーの実験は、これで最終回です。こちらも長い間、ありがとうございました。
でんち様、このような場を設けていただきありがとうございます。リレーはとても楽しかったです。そして、いろいろと勉強になりました。リレーに参加された方々、本当に感謝、感謝です。
_ おっちー ― 2009年06月17日 13時48分07秒
このリレーの「転」を担当した「デイリカット」ことおっちーでした。
今回は趣味に走ってしまいました。両方の作品共。
この作品の「匠くん負けないでっ!!!」の台詞は、『帯をギュッとね!』というマンガのパロディーです。
本物は、「粉川巧(こがわたくみ)」という名前の主人公です。
巧に、ヒロインの「近藤保奈美」が柔道の試合中、「巧くん負けないで!」という台詞を叫び、それが名シーンになっているのです。
失礼しましたっ!
ではでは。
今回は趣味に走ってしまいました。両方の作品共。
この作品の「匠くん負けないでっ!!!」の台詞は、『帯をギュッとね!』というマンガのパロディーです。
本物は、「粉川巧(こがわたくみ)」という名前の主人公です。
巧に、ヒロインの「近藤保奈美」が柔道の試合中、「巧くん負けないで!」という台詞を叫び、それが名シーンになっているのです。
失礼しましたっ!
ではでは。
_ おさか ― 2009年06月17日 16時15分57秒
リレーの「結」を担当しました「サイアム」ことおさかでしたー
ukihaji-12さんはすぐわかったのですが、二番目はわかりませんでした
つとさんだったのですね!ちょっと意外
おっちーさんはわかりました♪
転でいきなり文体も雰囲気も変わっちゃったので、やや苦労しました(のよっおっちーさん!)が、なんとか無理やり着地(笑
自分的には10.0とはいかず
8.9くらいでしょうか・・・
リレー、時々参加させてもらいましたが
いつもとても勉強になりましたし、楽しかったです
つとむューさん、ありがとうございました、そしてお疲れ様でした!
ukihaji-12さんはすぐわかったのですが、二番目はわかりませんでした
つとさんだったのですね!ちょっと意外
おっちーさんはわかりました♪
転でいきなり文体も雰囲気も変わっちゃったので、やや苦労しました(のよっおっちーさん!)が、なんとか無理やり着地(笑
自分的には10.0とはいかず
8.9くらいでしょうか・・・
リレー、時々参加させてもらいましたが
いつもとても勉強になりましたし、楽しかったです
つとむューさん、ありがとうございました、そしてお疲れ様でした!
_ おっちー ― 2009年06月18日 09時51分15秒
> やや苦労しました(のよっおっちーさん!)
あははははっ
すみませんです。
我が道を行くおっちーですね。
ぶきっちょなんで自分の文体変えられないんですよう。
もうちょっと本読んだら何とかなるのかなあー?
すんまそん、これからもよろしくお願い致します。
あははははっ
すみませんです。
我が道を行くおっちーですね。
ぶきっちょなんで自分の文体変えられないんですよう。
もうちょっと本読んだら何とかなるのかなあー?
すんまそん、これからもよろしくお願い致します。
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「ふりしきる桜のしたで」、この作品は私にとって、わかりやすかったです。映像にもしやすいストーリーで楽しませていただきました。三角関係は、やっぱり青春を盛り上げる不滅のテーマですね。直接関係はないのですが、中島美嘉さんの 「桜色舞うころ」の歌声が頭に浮かんできて、いい感じでした。