#035-0009「幻影」2009年06月01日 18時37分09秒

 「アケミちゃんでしたかの。向こうの世界に旅立ちはった彼女のお名前は」
 オトコは、恰幅の良さにお似合いのだみ声でそう言うと、革張りの椅子から身を乗り出し、オレの顔を覗き込んだ。血走った目が小刻みに震えながら、迫ってくる。

 「もう一度、会いたいんです。アケミに」
 オトコはうんうんと大げさに頷くと、オレの頭の上あたりに人差し指を突きつけ、ぐるぐる回した。
 「にいちゃん、ラッキーや」
 「は?」
 「おりまんがな、そこに。アケミちゃんの霊が。あんたを慕って。なかなかべっぴんさんやの」

 オレは頭上に目をやった。
 オトコの手元で灯された暖色の明かりが、天井を赤く染めている。オレの頭の影が、スイカ十個分くらいの大きさになって壁でゆらゆら揺れていた。

 「どこにいるって」
 オトコは指をさらにぐるぐる回す。
 「そこや、そこでんがな」
 オトコの指した方をもう一度じっと見る。しかし、狭い空間に一層の息苦しさを覚えただけだった。

 「何にも見えない」
 「あかんかー。残念。ま、そんな時もありますわ」
 オトコは、ちっとも残念そうでない様子で言った。
 「それが見えなんだら、打つ手なしですわ。きっぱりと諦めなはれ」

 オレは、さっと右手を伸ばし、オトコの襟元をつかんで引き寄せた。
 「霊をつかまえて、こちらの世界に連れ戻してくれる。あんたはそれができると聞いたから、大金を振り込んだんだ」
 「そうは言っても、百パーセント保証してる訳やおまへん。でける時とでけへん時とありますわ。あのイチローでも三割打てば万々歳でっしゃろ」

 「もう一度、アケミと同じ世界で生きたいんです」
 オレはオトコを揺さぶった。
 「どうしてもでっか」
 「そう、どうしても」
 オトコはしばらく沈黙した後、突然、
 「仕方おまへんな」
 そう言うや否や、ポケットから何かを取り出すと、目にもとまらぬ早業で……

 アケミ。
 オレの横にアケミが立っていた。
 悲しそうな顔で。
 かつてオレだった物体を。
 オレと一緒に見つめている。
(文字数:798)
名前:

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2009年06月01日 22時19分54秒

うる星やつらってアニメの映画2作目に
「ビューティフル・ドリーマー」ってのがありました。
ラムちゃんの夢を叶えるために
夢邪鬼ってのが出てくるストーリーだったと記憶してますけど、
その夢邪鬼ってのも、関西弁でした。
このお話を読んでいる間、そういうイメージができて
とても読みやすかったです。
あと、「ゴスート ニューヨークの幻」
つまり、映像的な感じが上手です。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2009年06月01日 22時37分34秒

繊細な雰囲気とアイデアとがバッティングしてしまって、陰惨な読後感になったかもしれません。そのおかげでこれはフィクションなんだってわかりました。愉しんでいいものなんだと。読者は勝手気ままです。

_ ukihaji-12 ― 2009年06月02日 20時50分32秒

次々と変化する言葉の羅列、文句無しに楽しく読めました。大変面白かったです。

_ 百吉 ― 2009年06月04日 11時36分42秒

あー やっぱり…
そういう旅立ちですね。
イチローのくだりが笑えました。
ムダがなくて読みやすかったです。

_ なぎさひふみ ― 2009年06月04日 18時14分27秒

 こなれている。最初から匂う感じが最後の場面にピッタシ嵌る。
 これは誰でしょう。あの人だと思うのだが、でもねーー違う作品もあの人だと思うのだから。

_ just4U ― 2009年06月05日 22時06分07秒

死後の世界があるとしたら・・・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・・・きっと、あるのでしょうね。
現実にこの物語のようなことが、起こったら、こわい。
でも、現実逃避したい気持ちに、ひとつのエンターテイメントとして、
文章があるのなら・・・、この「幻影」という作品は、面白い。
楽しませていただきました。

_ 木の目 ― 2009年06月06日 17時35分14秒

「あかんかー。残念。ま、そんな時もありますわ」
 オトコは、ちっとも残念そうでない様子で言った。
 「それが見えなんだら、打つ手なしですわ。きっぱりと諦めなはれ」

ここ、いいですね。なんだかストーカー一歩手前の男に説教しているみたいな、妙な間が。

オトコを殺してしまって、アケミとオトコが旅立つのを主人公が見送るってのも、ありかな。けっこういろいろバリエーションがあって面白い。アケミからみた主人公とオトコとか。

_ よっぱ ― 2009年06月06日 17時54分31秒

オトコと書いた作者さんのこだわりに何故なんだろうかと自問自答しつつ…

ちょっとひねったラストが面白かったです♪ うまい!

_ おさか ― 2009年06月06日 19時59分01秒

おもしろーい
関西弁って、やっぱりいいですよね
憎めない胡散臭さ、を出すにはぴったりでんなー
シリーズものに出来そうでんなー

_ おっちー@携帯 ― 2009年06月08日 11時40分25秒

昔テレビでもやってた、藤子A不二夫の『笑うセールスマン』(多分綴りは違う気がします)てマンガあったじゃないですか。 あれを思い出しました。 「ココロのスキマ」を埋めてくれるオトコ......しかし依頼者が欲を出した途端に、破滅が、依頼者に訪れる......。 完成されていますね。エンターテイメント作品として。 面白かったです。

_ つとむュー ― 2009年06月09日 07時26分55秒

”オトコ”とカタカナで書くと、子供のころ流行ったワカイ・オトコの話を思い出します。「犯人は女だ!」「犯人はオトコ!」「犯人は老人だ!」「犯人はワカイ!」。この4つの証言を満たすのは、ワカイ・オトコという老婆だけ、という話。この作品のオトコも、実は女性だったりして(笑)

ラストも面白かったんですけど、何か少し物足りないような気がしました。何故でしょう?

>「もう一度、アケミと同じ世界で生きたいんです」
この部分でわざわざ”同じ世界”と書いてあったので、ラストが読めてしまったからでしょうかねえ?それとも、主人公と会えたのに、アケミが悲しそうな顔をしていたからでしょうか?これについては、もう少し考えてみたいと思います。

アケミって、まさか以下の作品のアケミではないですよね?(笑)
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2007/01/12/1109198
この「幻影」の作者は、上のリレー作品にも参加された方のように感じたもので・・・(違っていたらスイマセン)

_ オトコ ― 2009年06月11日 00時40分36秒

ヴァッキーノさん

>夢邪鬼ってのが出てくるストーリーだったと記憶してますけど、
>その夢邪鬼ってのも、関西弁でした。

なるほど、僕は見たことありませんが(見たとしても忘れている)、そういうキャラクターがいたのですね。
関西弁というのは、なかなか使い勝手が良いなと、今回思いました。
といっても、いかにも関西弁らしい関西弁しか書けません。
現実の関西人は、もうちょっと違う喋り方をします。


コマ子さん

>陰惨な読後感になったかもしれません。

おっしゃる通りで、もっと違ったオチがあれば、迷わずそちらを採用しました。
バッドエンドにするにしても、すかっとするバッドエンドにしたかったのですが、思い浮かばず、でしたー。


ukihaji-12さん

>文句無しに楽しく読めました。大変面白かったです。

ありがとうございます。
ただ、楽しんでもらえれば、それだけで書いたかいがあります。


百吉さん

>イチローのくだりが笑えました。

関西のおっさんに特有の、テキトー話術、です(笑)
一見、理屈として成立しているようで、実は全く成立してないという、恐ろしい話術です。


なぎさひふみさん

>こなれている。最初から匂う感じが最後の場面にピッタシ嵌る。

ありがとうございます。一応、矛盾のないようには気をつけました。

>これは誰でしょう。あの人だと思うのだが、でもねーー違う作品もあの人だと思うのだから。

うっ、当てられたのか当てられてないのか。微妙なところでしょうか。


just4Uさん

>でも、現実逃避したい気持ちに、ひとつのエンターテイメントとして、
文章があるのなら・・・

そうです、そうです。
ストーリー展開を楽しんでもらうだけのものですから、そこに何らかの教訓を読み取ろうとしてはいけません(笑)
ま、仮に教訓めいたものがあるとすれば、関西のおっさんには注意しろ、でしょうかーー


木の目さん

>ここ、いいですね。なんだかストーカー一歩手前の男に説教しているみたいな、妙な間が。

会話の妙というのは、きっと奥が深いんでしょうね。
小説を面白くする要素の一つに、会話、というのはあると思います。

>オトコを殺してしまって、アケミとオトコが旅立つのを主人公が見送るってのも、ありかな。

つまり、アケミはオトコに恨みをもっていて、主人公がそれを晴らした、と。
あり、ですねー。あると思います!(最近流行りの人気芸人風に)


よっぱさん

>オトコと書いた作者さんのこだわりに何故なんだろうかと自問自答しつつ…

すいません。オトコの軽い雰囲気を強調するために、カタカナにしただけで、深い意味はないのです。

>ちょっとひねったラストが面白かったです♪ うまい!

ありがとうございます。
嬉しいです。


おさかさん

>憎めない胡散臭さ、を出すにはぴったりでんなー

そうです。キャラクター像がはっきりしますね。

>シリーズものに出来そうでんなー

相談に訪れた者は全て殺されるという、救えないシリーズ(笑)
しかし、最終章では、関西弁のおっさんが登場し、関西弁同士でエンドレスのバトルを繰り広げます。


おっちーさん

>昔テレビでもやってた、藤子A不二夫の『笑うセールスマン』(多分綴りは違う気がします)てマンガあったじゃないですか。 あれを思い出しました。

そうですね、言われてみれば、まさにあの路線でした。
そうか、そうすると、依頼者はもう少し欲深そうな青年にした方が、良かったなー
ありがとうございます。


つとむューさん

>子供のころ流行ったワカイ・オトコの話を思い出します。

えっ、初耳です(笑)
全国的に流行っていたのですか?若井乙子かな漢字にすると。
その手の話、好きです。

>ラストも面白かったんですけど、何か少し物足りないような気がしました。何故でしょう?

物足りなさは作者の僕も同感です。

おっちーさんのコメントをもとに考えてみると、
①依頼者は、欲張ってしまったがために、自らを破滅に追いやった
②オトコは、依頼者を破滅に陥れるつもりはなかったが、依頼者の欲深さによって、やむなく(とはいえ悪い心もある)そうしてしまった
―という2点の要素を満たす必要があります。

これが不十分だったように思います。

>アケミって、まさか以下の作品のアケミではないですよね?(笑)
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2007/01/12/1109198
>この「幻影」の作者は、上のリレー作品にも参加された方のように感じたもので・・・(違っていたらスイマセン)

ドキッ!鋭い!
アケミは何の考えもなく名付けましたが、確かに、過去のそういう記憶から、無意識に浮上してきた可能性が大です。

_ 蝶子 ― 2009年06月11日 09時09分41秒

切ないお話がオトコの台詞のおかげで間抜けに見えて、ユニークな一編に仕上がっていますね。書き手さんもおっしゃっていますが、関西でも地域によってちょっとずつ、たとえば語尾が異なったりします。自分の町の関西弁しか知らない私は、最初の台詞は「アケミさんどしたかいなあ」なんてしてしまうところです(笑)

どうしてもアケミのいる世界に……という語り手の思いが今ひとつ弱いような気がしました。

_ オトコ ― 2009年06月12日 00時07分16秒

蝶子さん

>自分の町の関西弁しか知らない私は、最初の台詞は「アケミさんどしたかいなあ」なんてしてしまうところです(笑)

そんなコアな関西弁は、さすがに耳にしたことがありません(笑)
兵庫の「●●しとー」という語尾が、割と好みです。

>どうしてもアケミのいる世界に……という語り手の思いが今ひとつ弱いような気がしました。

そう言われれば、確かに。あちこちに脇の甘さが出てますね。全てのパーツがぴったりしていない。

_ 矢菱虎犇 ― 2009年06月13日 03時10分47秒

私の読後感はシンプル&ストレート!オチの効いた話が好きなので、楽しめました!味を引き立てているスパイスはやはり関西弁の脂ぎった霊能力者の胡散臭さです。うまく丸め込まれそうです。
あまりにもすっきり美味しいのが物足りなさなのでしょうね。このお話自体、大金出してでも会いたい男の執念深さ、それゆえ死んででも会いたいという願いがかなえられるところじゃないかと思うんです。霊能力者以上に異常なのはオトコですよね。そのオトコの異常さがラストでチラリと「誰にもわかる形」で描かれているとよかったかなぁ・・・・・・・・・・
すいません、曖昧なコメントで・・・でも、言いたいのは・・・
自分はお話としてこういうのが好きです!

_ オトコ ― 2009年06月14日 22時06分51秒

矢菱虎犇さん

ありがとうございます。
オトコは、霊能力があるようにも、ないようにも、どちらともとれるように書きました。
嘘ハッタリをぶちかましているとも読めるし(霊なんて見えていない)、本当に霊が見えており能力がある、とも読めます。

霊能力がある、特異なキャラクターとして決めた方が、よかったかな?

_ 矢菱虎犇 ― 2009年06月15日 00時41分06秒

黙ったままでいると恥をさらさなくていいんですが、黙っていると恥以上のものを失いそうなので、正直に書きます。
僕はコメントの中で「オトコ」と「オレ」とを書き間違えてしまいました。にもかかわらず一生懸命返答してくださった作者さんのお気遣い、恐れ入ります。
夜中に焼酎片手にコメントを書きまくってあちこちで誤爆をやらかしてしまいました。ヨッパライ運転以上にヨッパライコメントは危険だと思い知りました。だって相手に必ず迷惑をかけちゃいますから。恥ずかしいです。・・・これはこれで文章塾最終回への僕なりの奮闘努力のゆえなんです。努力に注意力(実力)が伴っていなかっただけです。本当にゴメンナサイ。僕が言おうとしたのは以下のとおりです。

私の読後感はシンプル&ストレート!オチの効いた話が好きなので、楽しめました!味を引き立てているスパイスはやはり関西弁の脂ぎった霊能力者の胡散臭さです。うまく丸め込まれそうです。
あまりにもすっきり美味しいのが物足りなさなのでしょうね。このお話自体、大金出してでも会いたい男の執念深さ、それゆえ死んででも会いたいという願いがかなえられるところじゃないかと思うんです。霊能力者以上に異常なのはオレですよね。そのオレの異常さがラストでチラリと「誰にもわかる形」で描かれているとよかったかなぁ・・・・・・・・・・
すいません、曖昧なコメントで・・・でも、言いたいのは・・・
自分はお話としてこういうのが好きです!

・・・ううう、オトコさん、お許しくだされ(泣!)

_ manicure ― 2017年04月02日 00時25分25秒

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