#035-0007「文章塾に愛をこめて」2009年06月01日 18時36分31秒

 とんとん、とん。
 黒猫が寝そべるカウンターの向こう、銀髪のマスターが何かを切っている。
「冗談じゃない」
 タカシがどん、と机を叩いた。銀縁の眼鏡がふるふる揺れた。
「落ち着いてよ。あと一回あるでしょ」
「カズキちゃん呑気だなあ。一回しか、だよ。なあサクラ」
「んあ」
 サクラが大きな伸びをした。制服から下着がはみ出ている。
「んもう、それオシャレじゃなくただのずぼら」
カズキが言った。タカシはため息をつき、テーブル席に声をかけた。
「どう思います?」
「きっちり終わらせることも大事よ。良いことも悪いことも。ね、薫」
「うん。とにかく前進し続けるの。ね、敦子」
 二人は笑いさざめきながら繭の簾をくぐり、扉の向こうに消えた。
 とんとん、とん。
 奥の和室では賑やかな笑い声が響いている。襖が開いた。
「まだいいじゃなあい」
「明日も学校がありますから。ユリ、タツヤくん、帰るわよ」
 綾子はカウンター席の面々に会釈すると、二人を連れて去った。大きくなるばかりの嬌声に、一番端に座っていた和服の老婦人がすっと立ち、言った。
「お静かに」
 二人の主婦はすごすごと出て行った。
「お見事、露子さん」
 山下がグラスをかかげた。隣の男性も、栗ご飯のお握りを頬張りながら頷いた。
「ルミ、いい加減泣くのやめなよ」
「ユキは悲しくないの? 終わっちゃうんだよ、わーん」
 とんとん、とん。
「寂しいなあ」
 ミホが髪を指に巻きつけながら呟いた。
「仕方ないよ。あ、これ美味しい、栗のお粥」
「ホント呑気ね、カズキ」
 す と ん
 黒猫がカウンターから飛び降りた瞬間、闇が訪れた。
 どよめきが上がった。その声は次第に小さくなり、やがて消えた。
 ……光?
 光。
 背後から声が聞こえる。
 ……た来ねの。
 待ってるでの。
 眩しい光。
「行きますか」
 ルミが伸びをして、さっさと歩きだした。
 あれ?
 何処に行くんだっけ?
 ま、いいか。
「ふふ。別れの味は格別。旅立つ不安の味もまた格別」
 マスターの髪は艶々しい、金に変わっていた。
   
 
    

(文字数:799)
名前:

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2009年06月01日 22時04分33秒

一度読んだだけでは、いったい何人の登場人物が出ているのかわからないんですけど、
タイトルの「文章塾に愛をこめて」で
なんだかビビビっときましたね!
これは、この作者さんが積み重ねてきたものなんですね。
そう考えると、カタカナの名前多かったんですねえ(笑)

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2009年06月01日 22時07分14秒

キャンディーズの「微笑みがえし」の文学版です。このひとの作品を最初からずっと読んでいるひとが(これを)読んだら、きっと泣くでしょう。
ひとにやさしい作者だからこそ、(ノンフィクションでなく)フィクションで輝くのだといま思い当たったところです(おそい)。

_ すとん作者 ― 2009年06月02日 13時39分13秒

素早いコメント、ありがとうございます!

ヴァッキーノさん
ビビビと来ましたか
歯科医でしたね、確か
すぐ離婚しちゃったなあ
聖子ちゃんのビビビはあてになりませんでしたが
さてヴァッキーノさんのビビビはいかに!

ウラジーミル・コマ子さん
>キャンディーズの「微笑みがえし」
うわあ、その手があったか
タイトルそれにすればよかった・・・
コマ子さんにおいては泣いていただけたでしょうか?

_ ukihaji-12 ― 2009年06月02日 17時55分15秒

若者がトランプかその外のゲームをしてる時の会話か、何かさっぱり解りません。タイトルからして、理解に苦しんでいる所です。残念ながら私大分惚けたみたいです。

_ すとん作者 ― 2009年06月02日 18時48分48秒

ukihaji-12さん
す、すみません
わかりにくいのは全部私の責任であり
ukihaji-12さんが惚けたなどと! とんでもないっ
わるふざけが過ぎたと
ひたすら恐縮しております・・・

ukihaji-12さんにはいつも励まされておりました
その節は本当にありがとうございました

_ おっちー ― 2009年06月02日 23時24分06秒

 ハハハ、ukihajiさん分からなかったかー
 僕も最初「???」だったんですよ。
 でも上のお2人のコメントを読んで、作者さんの予想が確信に変わって、なーんとなく、分かったかな。
 多分なんですけど、作者さんのイメージしている世界って、僕が読み取っているより何十倍も何百倍も(?)大きく、はっきりしたものじゃないかと思うんです。
 だからこの作品を、漫画か映像で見てみたいと思いました。
 監督演出作者さんで(当たり前でした)。
 そしたらこの作品がもっともっとも~っと分かって、面白さも今よりずっと分かるのではないかと思ったりもしたりなんかしたり。
 つまりこの作品は、五感に訴えるマルチメディア作品にこそ適しているのだと思いました。
 だからその作者さんのイメージにあるマルチメディアっぷりを活字にもし落とし込めたら(間とかも含めて)、すっごく気持ちいい(面白いどころではなく)作品になる気がします!!!
 すみません、若輩者が意見してしまって……
 でも頑張ってくださいねっ!!!
 ではでは。
 恐縮ですう。(←バッタもん)

_ すとん作者 ― 2009年06月03日 10時09分18秒

おっちーさん
こんな自己満なものをそんなふうに言っていただいて大変恐縮ですう(バッタのバッタもん)
これ、ホント客観的にみたら何がなんやらわからん文章ですよね(笑
ある意味、こういうの書くのは快感でしたけど

自己満の上に自己中、皆さん申し訳ありませーん
と、
これから来る人に先に謝っておこうっと

_ よっぱ ― 2009年06月03日 22時48分40秒

あぁ、先に謝られてしまった(笑)
お久しぶりでございました。

_ 百吉 ― 2009年06月04日 11時26分21秒

あれ、もしや…と思ったら、やっぱりそうでしたか。
すいません、お久しぶりです。
ついていけて良かった。

_ すとん作者 ― 2009年06月04日 12時54分39秒

よっぱさん
てへ
お久しぶりでございます

百吉さん
お久ですう・・・・と、ここでもまた内輪な挨拶で
すみませぬ(笑

ももさんコメント爆走してるじゃないですか
どうしよう私・・・・・
明日にしようかな・・・・・(腰がひけている

_ なぎさひふみ ― 2009年06月04日 17時53分45秒

 あー目が回るーーーー。
 記録の総覧に記憶が騒乱する。
 でもそうか、そんなだったのだーーー。
 わたしなんてたったひとり、それはあなた。
 なんちゃって、被バッシーー。
 でもこれからもあればいいんですがーー。
 そう希望します。(泣)

_ つとむュー ― 2009年06月05日 08時37分36秒

>「お見事、露子さん」
> 山下がグラスをかかげた。

懐かしいですね。
ゆりかごでの書き直しコンペに参加したので、特にこの二人には思い入れがあります(コンペ、面白かったですね~)。あの時は、他の方の作品の人物を登場させて、自分なりの小説を書かせていただきました。まるで、自分で命を吹き込んだかのような感覚を、いまだに持っています。
たった二人の登場人物でさえ、こんなに感傷に浸ってしまうのですから、次々と登場人物が出てくるこの作品は、作者にとって特別なものではないかと思います。

って、作者はあの人ですよねぇ~?(笑)。違ってたらスイマセーン。

_ すとん作者 ― 2009年06月05日 17時09分51秒

なぎさひふみさん
あああ
目を回らせてしまってごめんなさーい
そんなだったんですよーそーなんですよー
これからですか?
あると思います(笑

つとむューさん
今回はリレーにも参加させていただきました
久々だったのでこんなんしか書けませんでした
すみませーん

今回一番謝る回数が多い記事かもしれん(笑

_ 木の目 ― 2009年06月06日 13時19分28秒

文章塾ならでは、という感じですね。
コメントを読んで、みなさん、やはりよく覚えているものだと感心する次第。

最近、もはや古いと言われる文章をじっくり読んでいます。
漱石、周五郎、ハーン、周平。
そのうえで保坂和志さんなどを読むと、うなることが多いです。
うなったまま、本の中に閉じ込められて埋没しています。

本を読んだり、文章を書くということは、新たな出会いがあって非常にありがたく思います。
「旅立ち」にあらたな祝福がともにあらんことを。

_ すとん作者 ― 2009年06月06日 16時46分21秒

きのめさん
皆様のあたたかいコメントは本当にありがたいです
幸せものです

塾長もいらしたことだし、今更ですがカミングアウトします
すとん作者は、おさかです
文章塾第一回から二十回まで、参加させていただいておりましたが
都合によりお休みさせていただいておりました

文章塾が終わってしまうのは大変寂しいですが
文章を書くことによってつながった縁は
まだまだ続いていくのだと信じております

今後とも皆様、よろしくお願い申し上げます

_ just4U ― 2009年06月06日 22時18分37秒

「文章塾に愛をこめて」
恐縮ですぅ。
誰にも負けない思い入れ・・・・
文章塾での仲間との連帯感・・・・・
コメントから伝わってくる
私には味わうことの出来ない共有感覚。
登場人物の多さにも仰天しましたが、

文章塾と文章塾に集う方々の礼儀正しさに、
恐縮しまくっているjust4Uです。
社会に出てから、
こんな集まりに出会うとは・・・。
最終回に投稿できたのは、幸運でした。
新参者の私にも、あたたかいコメントを
皆様からいただき、
感謝の念でいっぱいです。


さようなら。

余談ですが・・・
マスターの銀髪が金髪になるところが、
実写で表現されたら圧巻です。・・・多分。

_ すとん作者 ― 2009年06月07日 09時01分49秒

just4Uさん
こちらこそ、恐縮ですう
>私には味わうことの出来ない共有感覚。
すみませんすみません(汗
完全に内輪うけで、ちょっとゴーマンで、やな感じ~なものを書いてしまったと、反省しております(大汗
文章塾への訣別及び多大な感謝の気持ちを、自分の記念も込みで書いてみたかったので・・・
お許しくださいませ、読んでいただいてありがとうございました

金髪のマスター、案外すぐそこにいるかも、ですよ
なんちて

_ マロ ― 2009年06月07日 23時48分10秒

やられたー、というのが第一印象。その手があったか、と歯がみしました。このアイデアが思い浮かばず、ちょっと悔しい。

今回もそうですが、振り返ってみれば、音の表現というのが、一つの特徴だったかな、と思います。水の音とか、切る音とか。水回りの音が多いのかな、そういえば(笑)

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2009年06月08日 00時07分10秒

えっ! おさかさんだったのですか、作者。
いやあ、ぜんぜん別の、なんというか、
伊藤蘭さんかと思ってコメントしてました。

おさかさんだったらもっとほめるべきだった(笑)。
蘭ちゃんだったのでちょっと辛辣なことを(気をひきたくて)、
書いてしまいました、ごめんなさい。

おさかさんは蘭ちゃんというより、文章塾の小川洋子。
ぼくは80分しか記憶がもたない、江夏豊……。

また「結託」したいですね、とんとん。

_ すとん作者 ― 2009年06月08日 09時29分09秒

マロさん
>このアイデアが思い浮かばず、ちょっと悔しい。
いやあの・・・・一回しか使えない(当然)苦し紛れのやっつけ仕事に、そんなに言っていただけて、恐縮ですう(←今回流行ってます♪)

>水回りの音が多い
それは私が主婦だからー♪ってうがったことを言ってみたりする
うちには金魚もいるので、そういえば常に水の音がしています

コマ子さん
再びいらさいませー♪

な、なんでわかったんですか
私実はおさかじゃなくて伊藤蘭だったんですう
オフ会に行ったのは、近所のおばちゃんですう♪

ん?小川洋子?
バレましたか実は

もうええて(笑

ええ、ぜひ結託いたしましょう、すっとんとん。

_ すとん作者 ― 2009年06月08日 19時33分54秒

just4Uさん
すみません、ヴァッキーノさんのブログじゃなく
おっちーさんブログでした・・・・うっかりしてしまいました
恐縮です・・・・

_ 蝶子 ― 2009年06月11日 08時18分24秒

栗ご飯がいいなあ♪「隣の男性」、復員服だよね?(笑)少年、いる?

「光」は「ひかり」にしてほしかったよー。

とただ思ったまんまを書き捨てて去る。しゅっ

_ おさか ― 2009年06月11日 09時56分52秒

蝶子さん
えへへ、字数の関係で少年の存在を入れられなかったのが残念ですが、ちゃんといます
タツヤくんと喧嘩しそうだったので、カウンター内でマスターの手伝いです(笑

ひかり、ほんとですね、点々をやめてひらがなにすればよかった
すみませーん
>とただ思ったまんまを
なんかとってもうれしいです♪ありがとうございますっ

_ 矢菱虎犇 ― 2009年06月13日 02時51分18秒

文章塾、ラスト数回に駆けつけた矢菱虎犇という者です。
私のような新参者かつ不精者には正直、難解な文章でした。でも新参者には新参者の楽しみがあるんです。これから過去に遡って皆様の過去作を新作として楽しむ喜びが。私にとって文章塾はまだ始まったばかりであります。おさかさん、どうぞよろしくお願いします。

あれ?ここどこだっけ?
文章をこよなく愛する書き手が集まっているここは?
いろんな連中が思いっきり個性をキラキラ輝かせている
お互いのいいところはいいところでたたえあって
おまえ、ここなんとかしろよってはっきり言い合えて
互いを認め合う仲間たちの集うこの場所、
ここ、何というところでしたっけ?

僕は記憶をたどった・・・
アッ
ここはキミコ先生のクラスじゃないですかぁ!!

おさかさん、僕をキミコ先生のクラスのはじっこに入れておいてやってください。

_ すとん作者(おさか) ― 2009年06月13日 16時06分53秒

矢菱虎犇さん
きゃーっ
ありがとうございます、恐縮ですう
ヴァッキーノさんのブログではおなじみですね♪
お休みしていた間も、ときどき塾を覗いてはいたんですよ
矢菱さんが現れたとき
一瞬、ヴァッキーノさんの自作自演なのかと思いました(笑
もーヴァッキーちゃんたらまたまた、なんて
個性と個性のぶつかりあいははたからみても面白く刺激的です

まだまだ塾は続くようですので
これからも、よろしくお願いしますね♪
読んでいただいて、ありがとうございました!

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