#032-0004「夕焼け空」2009年02月22日 08時22分58秒

 8月14日の夜はとても蒸し暑く、窓を開けていても風がひとつも入ってきませんでした。
 寝苦しくて、何度も寝返りをうっていると、松子もなかなか寝付けずにいたらしく、むくりと起き上がって私を団扇で扇ぎはじめました。
「こう暑くては眠れませんね」

 と、その時です。
 突然、空襲警報が鳴り響きました。
「B29か!・・・・・・まさか!」
 私は窓から真っ暗な夜空を見上げました。

 港の方から、ごうごうというB29の不気味な低空飛行の音が聞こえてきました。
 そして、精油所のあたりが浮かび上がるように急に明るくなったのです。
 少しして熱風を揺らし、どどどーんという爆音が響きました。
「松子! さ、防空壕へ急ぐんだ」
 私は松子の手を取ると、近くの防空壕へと急ぎました。

 道の途中で、松子が立ち止まりました。
「見て」
 松子は、港の方を指さして言いました。
 精油所の炎の明りに照らされて、雲の間から、B29が無数に見えます。

「今にこっちにも来るな。防空壕に入っていても、だめかもしれねえぞ。そうだ、松子、どうせ死ぬんだったら・・・・・・ほれ、あそこの護国神社に上って、あそこから港の爆撃を見ながら死のうや」
 私は松子の手を強く握りました。
「・・・・・・そうですね」
 松子は、そう言いながら、涙をぼろぼろと流しました。
「さ、行こう」
 そう言って上った護国神社の境内には、私たちの他には誰もいませんでした。

 どどどどーん!
 どどどどどーん!

 また、空襲が始まりました。
 港が岸壁に沿って赤い炎に包まれていきます。
 煙に包まれた港町が明るく照らされます。
「ああ、きれいだなあ」
 私は思わずつぶやきました。
「はい。まるで夕焼けみたいですね」

 昭和20年8月14日午後10時30分から、翌日の午前3時30まで、土崎港への空爆は続きました。
 それは、秋田では唯一の大空襲となりました。
 そして、8月15日の正午、私たちはラジオから終戦を伝える天皇陛下の玉音放送を聞いたのでした。
(文字数:797)
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コメント

_ ヴァッキーノ ― 2009年02月22日 22時47分15秒

ううう、戦争ですね。
今もどこかで戦争が起こっているわけですが、
ボクには、今のところ無関係です。
でも、第2次世界大戦も、起こるまでは、ボクのおじいちゃんもおばあちゃんも、ボクと同じく無関係だったわけですね。
いつかボクもこんな夕焼け空を見ることになるんでしょうか?
イヤです。それだけはイヤです。
体験記みたいなものは、書きたくありません。
でも、読まなくてはなりませんね。
平和のためには・・・・・・。

_ 矢菱虎犇 ― 2009年02月24日 00時24分39秒

戦争未経験者ですが・・・戦争って、もっともっと語られなくてはいけないと思っています。これまで作られてきた能天気な戦争ヒーロー映画が色褪せてしまうような、本質に迫る感じで。一寸先に死が訪れるかもしれない、生が研ぎ澄まされたとき、上空のB29の機体が銀色に光って美しく感じられたり、きっとこんなふうに空襲の赤い炎が夕焼けのようにきれいに感じられたり・・・皮膚感覚で共感できるようなリアリティが大切だと思うのです。

_ でんち ― 2009年02月26日 18時52分43秒

なんか、感動しました。

_ 木の目 ― 2009年03月01日 00時19分41秒

いまの平和はわたしにとっては生きていることを忘れている日々かもしれないです。
先日父と話したとき、「ああ、なんだかたいへんだなぁと思ったのは、昭和18,19,20年の3年ほどで、そのあとはとにかく食っていくことに精一杯だったので、あんまりたいへんだとか思っている暇はなかったなぁ」といっておりました。
いまは? と聞くと
「いまも食っていくのに精一杯だから、あんまりたいへんだとは思っている暇がない」とのことでした。
わたしは暇がありすぎるのかもしれないです。

_ つとむュー ― 2009年03月01日 22時31分40秒

>「・・・・・・そうですね」
> 松子は、そう言いながら、涙をぼろぼろと流しました。

松子は、この主人公の娘さんでしょうか?
子供ながらにして自分の死を受け入れるところは、戦時中ならではのことでしょう。それでもやっぱり涙が止まらない。そんな松子に、じーんときました。
あと、松子の丁寧な言葉遣いに、”北の国から”の純を思い出しました。

_ 飯澤 ― 2009年03月07日 21時48分11秒

はじめて立ち寄らせていただきます。
飯澤と申します。
素晴らしい作品の数々で、圧倒されました。
中でも特にこの作品は鮮烈な映像が想起されます。

_ nagase ― 2009年03月09日 01時02分56秒

>松子は、そう言いながら、涙をぼろぼろと流しました。
私はここだけひっかかりました。涙をこぼすのが早すぎないか? と。
もちろん、だからこれはフィクションだなどと見抜いたわけではありません。
作者はこういうレベルの高いフィクションをいくらでも創作できる文才の持ち主なのだと思います。

こういうフィクションを書こうと思えばいくらでも書けるのになぜ戦争が題材に選ばれたのか? 夕焼け→空襲……という単なる連想ゲームだったりして(笑)。

_ manicure ― 2017年04月11日 19時39分32秒

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