#029-0004「急性老化症候群」2008年10月20日 23時10分49秒

急性老化症候群
生来の引っ込み思案で損ばかりしてきた。大学2年まで女性とつきあったことさえなかった。そんな私に一大転機 が訪れた。
私が「急性老化症候群」という極めて稀な症例であることを医大のドクターが告げたのだ。20歳頃老化が始まる のは一緒だが、通常の2倍の速度で老化が進む不治の病らしい。私は慌てた。
「私の寿命は?」
「男性平均寿命の80歳として、20年を引いて60年、その半分に20年足すと、ざっと50歳・・・ただし、数少 ない同じ症例で50歳まで生きた報告は残念ながらありません。」
翌日から、私の生活は変わった。いや、私という人間が変わった。片っ端から女性を誘った。周囲の顰蹙を買った が、知ったことではない。私はそいつらの、あと半分しか生きられないのだから。
猛勉強して第一志望の一流企業に内定、就職1年目に才色兼備の妻を娶り、2年目に子宝に恵まれ、3年目にマイホー ムを建てた。急げ、私には半分の時間しかないのだ。酒は度を過ごさず、喫煙せず、老化を少しでも遅らせるよう、 健康に気遣った。だがやはり、白髪や皺の増えるのは早かった。ギャンブルなど無駄遣いせず、人の2倍真摯に働き 、人の2倍のスピードで出世し、45歳で早期退職をした。余生を妻と世界中の国々を旅行して過ごした。
50歳を過ぎたが、私は健康そのものだった。これまでと変わらず、一日一日を慈しんで幸せに暮らした。
去年、愛妻が先立った。今年で私は70歳になる。私はよく当たると評判の易者にみてもらった。
易者は私を一目見るなり叫んだ。
「稀に見る長寿の吉相ですぞ。占いましょう」
筮竹を分けては数えて・・・易者は目を白黒させた。
「170歳?ありえない・・・もう一度占いましょう」
私は腹を抱えて笑った。笑いすぎて涙が出た。私は計算した。170から20を引いて半分にして・・・。
残り、25年か。そろそろのんびり生きてみるかな。

(文字数:775)
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コメント

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年10月21日 16時30分17秒

うまいものだなあ。ふつうに読んでしまいました。面白かった。他にいうことあるかなあ。
いよいよ50歳が近づいて、それからぶじ通り過ぎるまで、その間の心というのはどうだったのか。このお話のように(?)意外に平気で通り過ぎちゃうのかも。

_ 急性老化症候群患者 ― 2008年10月21日 19時11分24秒

ウラジーミル・コマ子様、コメントありがとうございます。
社長職になるとか、50歳前後の葛藤とか、その後の社会貢献とか、構想は膨らんだんですが処理できず、ばっさり省いてしまいました。そこのところを見事に指摘していただきました。勉強になります。

_ ヴァッキーノ ― 2008年10月21日 20時23分52秒

出だしが、いいですね。
まるで夏目漱石の「三四郎」のようです。
計算式を文章で書くってのは、ボクには
難しくて無理っぽいんですが、
作者さんは、理数系なんでしょうか?
長寿っていってもいずれは死んでしまうわけですから、
いつ死んでもいいと思って、一日一日を大切に生きる
ってのが、いいんでしょうね。
あとは、健康だったら、臓器は全部移植しちゃって。
ばらばらになっても、生き続けるわけですから。

_ 急性老化症候群患者 ― 2008年10月21日 22時00分47秒

ヴァッキーノ様、コメントありがとうございます。
ご指摘どおり、簡潔な独白調をめざしたら漱石っぽくなっちゃっいました。鋭いっ
当方、筋金入りのド文系でございます。何度も何度も計算しながら数字を書きました。投稿後も計算が合っているか心配で心臓ドキドキ・・・
自分の場合、死ぬ日がわかったら、その日まで何かガムシャラにやっちゃうと思うんです。その日がわからないから、のんびりやっているような気がしています。自分自身の死っていうのは、あまりにも現実的でなくて、想像できません・・・
少なくとも、急性老化症候群の「私」のように、寿命が他人の半分なら理不尽に感じます。たとえ、寿命が100年あったとしても、他の人の寿命が200年ならば、それはそれで不満に思う気がします。う~む、自分はなんとも、他人との比較からしか考えられない浅はかな人間ですね。

_ でんち ― 2008年10月21日 23時21分41秒

>急げ、私には半分の時間しかないのだ。
にグッっときました。
そんな緊張感をもった瞬間ってドーパミンですよね。
なので、最後はのんびりでいいのかなー?でも最後はのんびりだよなーなんて思いました。
絵もグッっときました。

_ 急性老化症候群患者 ― 2008年10月22日 00時04分38秒

でんち様、コメントありがとうございます。
でんち様にグッときていただけるなんて光栄です。
嬉しくてグッときました!!
70年間もの間、残された一分一秒を意識して、かけがえのない時間を走り続けた人間がいたとしたら、これから先の25年もきっとのんびりすることなんてできるはずないでしょうね。そんな人間の「のんびり」って、のんべんだらりと生きている自分のような者にとっての「のんびり」とは全然次元が違うのかもしれません。「のんびり」生きられない人間がシャレっ気で言った言葉、みたいな感じでしょうか?
絵は、和風の白波模様と毛ガニの足と翁の能面を合成して作りました。何となく作品のイメージにぴったりな気がして・・・
ただ、今後、作品を投稿する際には、絵はナシにするか、写真にするかにしますね。だって、似た感じのシュールな絵で作者ばればれになってしまいそうですから。

_ 馥 ― 2008年10月22日 14時59分19秒

少し怖いお話ですがとても面白く読みました。
あと50年生きられると云われて良かったです。あと5年とか5ヶ月とか5日とかでしたらどうされたでしょう。
それにしても、ドクターと易者に左右された人生でしたね

_ (未記入) ― 2008年10月23日 00時27分30秒

馥様、コメントありがとうございます。
主人公の「私」は大学2年、およそ20歳の時に「急性老化症候群」で50歳まで生きられないだろうとわかります。だから、その時点から残りの時間は30年足らずという設定です。わかりにくい書き方で、ごめんなさい。主人公の置かれた状況設定の説明なのですから、ぼかす必要もないこと、もっと明快な書き方をしなくては。
勉強になります。
さて、もう一つ、馥様のご感想を読んで、まことに恐ろしいことに気がつきました。この文章のアイディアは、私の年齢と大いに関わっているということです。もし私が、10代後半だったら寿命を25歳くらいに、25歳くらいだったら35歳くらいに設定していたはずです。そして急性老化のスピードを2倍速ではなく、3倍速や5倍速にしていたはずです。50歳の自分にも、何となくリアリティを感じる年齢になったオヤジだからこそ、無意識に2倍速に設定し、寿命50歳に設定していたのです。
いやはや、こんな形で自分の年齢が作品に反映されるとは、全く気がつきませんでした。そして、お若い読者の方々には、全く「急性」な話でもなんでもない話なのですねぇ。意外な発見でした。
あ、それに、TVで占い師や神の手を持つ名医とか出てくると胡散臭くてチャンネルを変えてしまう自分が、無意識に医師や易者に人生を左右される話を書いてしまっていたことも御指摘によって初めて気がつきました。
ただ思いついたアイディアを書きおいていただけでは気がつきようがありません。
投稿してよかった。率直な感想をいただけてよかった。文章塾、万歳です。

_ 急性老化症候群患者 ― 2008年10月23日 00時31分57秒

名前書き忘れてしまいました。まことにすみません。上の(未記入)のオトボケ野郎は「急性老化症候群患者」です。お許しのほど。

_ なぎさひふみ ― 2008年10月25日 19時17分10秒

 会長いえ階調いえ快調な文に、加速するとは止まる事なのだろうか、などと変に哲学してしまいます。
 ソクラテスは自分が無知であることを徹底的に追求して、知という深い意味を明らかにしたのでした。
 このように、「時間」の心と体、そして魂とはどの様な接点があるのでしょう。

_ つとむュー ― 2008年10月25日 21時57分18秒

>そろそろのんびり生きてみるかな
この一文が良かったです。
おそらく、忙しく生きている方は死ぬまで忙しく、のんびり生きている方は死ぬまでのんびり生きると思うので、そういう転機を迎えた方は、ある意味幸せだと思います。

主人公が45歳で早期退職しちゃった時に、年金どうなっちゃうんだろう、と不安になりましたが、何とか幸せに70歳までは過ごせたみたいですね。ほっとしました。

_ 矢菱虎犇こと、盗作屋 ― 2008年10月28日 21時39分43秒

初めてこちらに投稿させていただきました、矢菱虎犇といいます。変な名前というか、漢字の並びですが、ヤビシ・トラビシって読んでやってください。
8月下旬から思い立って、ブログにショートを書いています。ブログの名前、「蛇地獄」です。蛇地獄で検索かけたら、クネクネと書かれたユニークな作品にたどり着き、それで「文章塾」に興味を持って、たびたび覗かせていただき、このたび、お邪魔させていただきました。皆さんのコメント、とても勉強になりました。

なぎさひふみさん
(~様は堅苦しいと思い、失礼ながら途中変更します)
コメントありがとうございます。精神的な時間は、誰しも急性老化症候群患者のように加速していきますね。幼少の頃は数十分の遊ぶ時間も永遠のように長く楽しかったのに、今では日々が飛ぶように過ぎていきます。この加速に棹をさすには・・・?映画「ある日どこかで」の主人公リチャードのように、精神力で時の彼方に旅立ちましょうか。

つとむュー さん
拙文を理解していただいてありがとうございます。ご推察どおり、最後の、このフレーズから、この拙文の構想はスタートしました。
時間の受け止め方自体は人の精神のあり方そのものですよね。全く同感です。
早期退職の件ですが、主人公は社長に大抜擢、時間を扱った人生訓話で社員の尊敬を集め、天下りなど何の見返りも求めず早期退職、という設定を考えていましたが、800字にするため全部はしょってしまったのです。疑問が出て当然の部分ですよね。
そのへん、追加した形で、いずれ自分のブログに載せたいと思っています。完全版にするつもりが、もっと破綻してしまうかもしれませんが。

ここでたくさん勉強して、もっと魅力的な文章が書けるようになりたいと思います。たびたび寄らせてください。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。

_ BHW ― 2017年04月14日 01時23分55秒

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