#026-0011「雨の観覧車」2008年06月18日 01時55分55秒

静かな電気モータによる振動音がしている。

海の近くの観覧車で太郎は雨の中、独り観覧車に乗っていた。独りで乗るとは予定外だった。5月病に掛かりそうな頃に6月になり、気持ちも晴れやかになるかと思っていたころに事件が起きるとは。


先ほど入った喫茶店のことだった。店全体は木製を基調になっており、テーブルとテーブルの間は木製の仕切りがあり、個室になっている。好きな珈琲を注文せず、内蔵の調子が悪いため、ココアにする。店内には染み付いた煙草の香はするものの煙は感じられない。初めはあちこちで携帯電話の音が鳴り響き、鳴るたんびに音の方角を見たものだ。全くもって気持ちが落ち着かない。ココアを少し口に含む、家では飲めない高級そうなココアのようだ。ココアについてきたブランデーは、今日は我慢しておこう。携帯電話の音が鳴る方向はどうやら同じ方向だ。しかし着信メロディーが異なる。いつも殆んどどこにいるのか不明な店員を呼ぶ。先ほども姿は見えないのに呼ぶとどこかから出てくる。
「この着信メロディーはどうにかならないものか?」
「当店では、店内音楽を着信メロディーにしております」
絶句であった。ブランデーをココアに急いで入れて飲み、店を出たのは言うまでもない。


観覧車は地上に着いた。太郎が観覧車を降りる頃には雨もあがっていた、澄み切った空に向かって思いっきり空気を吸い込んだ。太郎は、肩を軽く叩かれた。紗世がこちらを見ていた。多少怒っているようにも見える。頬が少し膨らんでいて、口角が下がっている。いつもは少したれ目の目じりが心なしか上がっているようにも見える。上目遣いで見るところも怪しい。

そうだ。事件とは、余りに不思議な喫茶店後に、考え事をしていたため太郎が乗り遅れて、別々に観覧車に乗ることになってしまったということである。離れて寂しい思いをしたため、雨の後の冷えた空気の中、寄り添って歩いて帰ろうと太郎も紗世も思った。
(文字数:798)

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コメント

_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2008年06月18日 11時54分58秒

観覧車のように言葉がぐるぐると循環していて面白かったです。なんといいますか、どうすりゃこういう文章が書けるんだろうと、発想とかそういうのを超えたなんか独特のなんかがあるんです。
なんていったらいいのかわかりませんが、目の前の鉄棒は丈夫にできているから、大車輪とかやっても大丈夫だろうって思ってぶら下がったら、ポッキーでできていたっていうような、尻もち感がたまりません。
もっと読んでみたいです。

_ ひょうたん ― 2008年06月19日 22時37分25秒

すごいですね、着信メロディーをBGMにしている喫茶店。行きたくはありませんけど…。
梅雨を思わせるようなやや暗くて湿った感じの文章で、6月らしさというか、そういうものを出しているように思いました。
しかし、太郎が観覧車に乗り遅れた、とありましたが、紗世は待っててあげても良かったんじゃないかなと思います。その辺に多少違和感を感じました。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年06月20日 15時03分02秒

免疫能力を高めるなどの御利益があるので笑いが推奨されているのでぼくも笑わなきゃと思う毎日ですが、可笑しいことがないと笑えないじゃないですか。それなのにこの「雨の観覧車」は本人がおぼえているだけで2回笑わせたんです。「絶句であった。」と「紗世」。もったいぶった語りが事件のことをほのめかすが、なんのことはない事件とはいっしょのゴンドラに乗れなかったこと! まねのできない可笑しさ。「そうだ。」というとぼけたフレーズもグッドです。

_ うらら ― 2008年06月20日 22時55分06秒

もしかしてこれもリレー?と思ったのは、先に読んだNO.12に引きずられ過ぎでしょうか。奇想天外な喫茶店に絶句して、事件をまとめるのに苦労しているように見えたのですが・・・ 着メロのアイデアと、イントロの部分が特に光ってますね。

_ なぎさひふみ ― 2008年06月24日 18時15分36秒

 読者をどこへ連れて行こうかという、作者の気配がくすぐりとなって、思い悩むことの多い雨を感じました。

_ でんち ― 2008年06月25日 18時50分46秒

予定外だが想定内ってやつですか。
違う。「店内音楽を着信メロディー」想定外だー。
最後も想定外だったー。(笑

_ 蝶子 ― 2008年06月27日 19時24分04秒

ああ、事件ってそういうことなのか、となんだかほのぼのした気分になりました。着信を店内で流しているなんてやな喫茶店。だから、観覧車殺人事件でも起きたのかと思いましたが、やはりKENさんならではの、ゆるり感あふれる雨の日の物語で、ほっとしました。

それにしても、よほど深く考え事をしていたのですね、太郎くん。(笑)

_ 木の目 ― 2008年07月01日 19時30分08秒

これはKENさんだったんですねぇ。
ウラジーミル・コマ子さんのつっこみで、
ひょっとしたらとは思ったんですが。
都会の小道具を出すのがうまいですね。

_ つとむュー ― 2008年07月15日 12時22分39秒

この間、一人で観覧車に乗りました(出張先で)。
最近の観覧車って、冷房が効いているんですね。なかなか快適でした。

>別々に観覧車に乗ることになってしまった
どうしてこういう発想ができるのか、作者の発想力に感心してしまいました。着信音が店のBGMというのも、不思議な感覚ですね。

>絶句であった。ブランデーをココアに急いで入れて飲み
いや、ココアにブランデーの方が絶句ではないかと(笑・・・やってみると意外とうまかったりして・・・)

_ jackquelinescrudato.wordpress.com ― 2017年08月11日 18時12分59秒

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