#026-0006「梅雨空と皿」2008年06月18日 01時44分22秒

 「昨日の予報で明後日は雨と言ってましたが、今日の予報では晴れに変わりました」とテレビのお天気キャスター。
「実は6月の天気予報的中率は58%と一年で一番低いんです」とV字型の棒グラフの底を指差す。台風五号が去っても、日本列島の南海上にある梅雨前線が僅か10キロ上がっただけで雨。下がったら晴れと予報が極めて難しいそうだ。日替わり天気予報の言い訳に泣きが入って面白かった。
 梅雨前線が気になったので気象衛星で雲の動きを眺めてみる。便利になったものだ。気象庁のホームページで24時間前から1時間ごとの雲の動きが手に取るように分かる。赤道付近では雲が真西に流れ、緯度が高くなるに連れ今度は反転して北東方向へ雲が流れている。まるで日本列島に添うかのような雲の帯は途切れることが無い。北海道だけはぴょこんと雲の帯から顔を出している。成程、北海道には梅雨が無い訳だ。煙草の煙がたなびくような雲の帯の揺らぎを予想するには最新気象データでも丸一日が限度なのだろう。

 データと言えば26歳の時に名古屋に転勤した時のことを思い出した。
昭和35年6月25日。数社の担当客先の一つとして私が訪れたN陶器のO室長さんのお話が忘れられない。「陶磁器はよく壊れるんです。陶土を成型しては壊れ、乾燥しては歪み、素焼きにしては壊れ、絵付けをしては壊れ、製品になっても輸出の途中で壊れたりして原価が幾らか分からなくなるのです。そこで穿孔カード式計算機を採用することに・・・」

 N陶器が明治9年に米国に進出しアールヌーボー様式の輸出用陶磁器の大量生産に成功するまでには更に10年を要したらしい。ネットで検索してみると成功した理由はチャイナならぬニッポンのブランド意識を大切にしたことだと社史にあった。不確定なものを何とか数値化しようと創業当初よりデータ重視の姿勢が伺える。どんよりとした梅雨空を眺めているとアールデコの絵皿が浮んだような気がした。

(文字数:800)

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コメント

_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2008年06月18日 10時13分16秒

お天気っていろんなことに影響を与えますね。
そばとかもそうですよね。
そば粉と水の比率を天気の具合で決めたり、漁なんかもそうだし、関節痛だってそうですもんね。
天気ってやっかいなもんですね。
天の気分で天気なんでしょけど、人間にはまだまだ越えられないものもありますね。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年06月19日 15時46分18秒

知的な愉しさの伝わってくる話と時間的な厚みを感じさせる話のふたつが、「データ」を介して、赤道から北海道の手前までつながったようなスケールで展開していて驚かされます。

_ なぎさひふみ ― 2008年06月19日 16時09分21秒

 私はなぜか淋しく感じた。それは自然の数値化によって、人間の自然への畏怖を減退させるように感じたからです。 なぜか今、天変地異が多いのは、自然の、人からの影響の拒絶としか謂えないこともないような感じでしょうか。
 共にあることと、人の進化とは何か。もう人中心の世界で地球を考えることのその弊害に、自然が答えていると私は思うのですが。

_ うらら ― 2008年06月23日 21時36分54秒

我が物顔に振舞う人類の傲慢さは、自分もその一員ながら空恐ろしく感じる一方、陶磁器が壊れても壊れても工夫を重ねて、日々の暮らしをこつこつと豊かなものにしてきた人類の営みも愛しいと思うのです。
ゆったりとした語り口調の中に、作者の経てきた時間の広がりや深さを感じるこういう文章、やっぱりなかなか書けないなあ。

_ でんち ― 2008年06月25日 18時45分42秒

気象庁のホームページ、素敵な時間を過ごされたんだなーと羨ましく思いました。
数字は苦手だけれど、とってもためになる、理解しやすいお話でした。

_ 作者 ― 2008年06月25日 20時12分15秒

皆様の暖かい沢山のコメント有難うございます。m(_ _)m

トゥーサ・ヴァッキーノさん
>天気ってやっかいなもんですね。
 ・・と言うより呼吸みたいなものだと思っています。

ウラジーミル・コマ子さん
>「データ」を介して、
 文学的な素養が全く無いことを今更のように痛感しています。
なぎさひふみさん
>共にあることと、人の進化とは何か。
 恥ずかしながら哲学的な素養もありません。淋しい限りです。

うららさん
>日々の暮らしをこつこつと豊かなものにしてきた人類の営みも愛しいと思うのです。
 こんな素敵なコメントは私には書けません。過分なお言葉ありがとうございます。 

でんちさん
>気象庁のホームページ、
 雲の動きを毎日眺めていますと、明日の天気が何となく判る様な気がしています。

_ 蝶子 ― 2008年06月26日 17時18分57秒

今回こそ期限内に読破&コメントを、と思っていたのですが、けっきょく間に合いませんでした。
遅くに失礼いたします。

気象の話と陶器産業の話。一見つながらないようなトピックが梅雨空でまとまりましたね。こちらを読んでから器や皿を眺めますと、なるほど、どんよりした空の色にそっくりだと思えます。

>データと言えば
で始まる段落、最後の「計算機」という言葉にいたるまでよくわからず、「なぜデータと陶器が関係あるのかな」と思いながら読まなくてはならなかったので、気になる点があるとしたらそこです。

それともうひとつ、下から2行目の「伺える」は「窺える」であるべしと思います。

_ 木の目 ― 2008年07月01日 21時10分03秒

実はオールドNのファンです。
札幌にはマイセンの美術館があるのですが
Nの美術館はありません。
Nカンパニーが作っているミキサーを工場で使おうと思い、
サンプルを取り寄せて混合機の模型を試作しましたが、
日の目を見ませんでした。木の目だったからかなぁ。

梅雨空とデータと過去をうまく織り込んでいる秀逸な小品だと思います。

_ つとむュー ― 2008年07月15日 22時13分57秒

昨年、家族でハワイ旅行に行った時のことです。ホテルやレストラン、レジャー施設のトイレの便器は、みんな「アメリカンスタンダード」製でした(食事中の皆様、申し訳ございません)。
しかし、アラモアナショッピングセンターに行った時のことです。トイレに入ったら、便器に「TOTO」と書いてあるではありませんかっ!何か誇らしげな気持ちになり、尿の軌道も心もち上向きになりました。そんなことを思い出しました(本コメントの中で、なんとなく不適切な表現がありましたことをお詫びいたします)。

_ ameblo.jp ― 2017年08月11日 01時36分49秒

Highly energetic post, I enjoyed that bit. Will there be
a part 2?

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