#024-0005「Fの魔法」2008年04月17日 23時12分20秒

#024-0005「Fの魔法」
「Fって何だ…?」
雄介は授業中、ずっと考えていた。
京香が古文の教科書に書いていた記号の意味を。
フール?ファール?まさか腑抜けのF?

一つ前の時間は古文だった。
け、け、ける、ける、けれ、けよ…
五月の陽気に、古文の呪文がすうっと溶けていく。
涅槃の境地に達したところで、俗世から自分を呼ぶ声が…
はっと目を開けると、恐い顔をした先生が机の前に立っていた。
立たされながら教室の失笑を見回すと、一人だけ教科書を見ている奴がいる。
こんな時でも勉強かよ。優等生は違うぜ…
しかしそれは勘違いだった。
京香は教科書に何かを書き込むと、ニヤリとこちらを見た。

京香の席は、俺の二つ隣の窓際だ。
成績優秀、容姿は…まあまあかな。
だから今まで気に留めていなかったが、あれ以来意識してしまう。
確かあれは”F”に見えた。
また何か書かれるんじゃないかと思うと、つい彼女を見てしまう。
窓からの風を受けてサラサラとそよぐ長い髪。
セーラー服のリボン辺りのなだらかな膨らみ。
今が盛りと芽吹く若葉よりも、授業に集中する瞳が美しい。
”古文の教科書に書いてたFって何だよ?”
以前なら何でもなかった質問が、俺の口を重くする。

「な~に~?あんた京香に気があんの?」
ホームルームが終わると留美が後ろから小突いてきた。中学校からの腐れ縁だ。
「べ、別に…」
「そう、ならいいんだけど。ちょっと気になることを聞いたから」
「何だよ。教えろよ」
「内緒だよ。あの子達のグループって、あんたで賭けしてんのよ」
「えっ?」
「古文の時間ね、あんたが何回居眠りするかって賭けてんの」
じゃあ、Fって何だ…
「京香の観察によるとね、あんたの古文の居眠りはいつも三回だって話だよ」
三回、三回…。そっか、あれはFではなくて正の字の途中だったのか…

明日の五時間目は古文だ。
襲い来る睡魔とそれを狩る小悪魔。
全滅してしまいそうな睡魔を応援したくなるのは、魔法にかかった自分を認めたくないからだろう。
(文字数:798)

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コメント

_ なぎさひふみ ― 2008年04月18日 15時52分01秒

 心の揺れの淡い光の夢が魔法であれば、目覚める魂の回数は正しいを超越するだろう。
 きっかけとの出会いとは、天使の通う場に夢見することであろうか。

_ KEN ― 2008年04月19日 00時49分23秒

好きな作家の 森博嗣著作の『すべてがFになる』のFかな?って思いながら、読みました。途中で正というのもありかもと思いながら読んでいました。
>リボン辺りのなだらかな膨らみ
このあたりから作者は男性かな?って想像したりして。
この続きはもう少し長い文章で読んでみたくなります。

_ いづみ ― 2008年04月19日 15時11分57秒

そうか!やられた~、Fじゃなかったのか。
描写も展開もさわやかでステキ。
最後の一文が、後を引く恋の味♪って感じですが、ここであえて情景描写を入れると余韻が増すかもしれないと思いました。

この制服は、新緑を背景にしたセーラー服。リボンは赤かな。

_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2008年04月19日 16時17分39秒

この作者さんのすごいのは、多分意識して
>五月の陽気に
って文章を入れたトコだと思うんです。
今回の文章塾は4月中旬に投稿の期限があったわけじゃないですか。
で、だとしたら、雑誌でいったら5月号なわけですよ。
文章に読者へのサービス精神がありますね。
ボクもできるだけそうありたいと思ってます。
だから、
>五月の陽気に
ってのがうまいと思いました。
制服の件ですが、なかなかセーラー服の胸のコトなんて男子は直視できないから、ちょっと恥ずかしい描写でよかったです。

_ F ― 2008年04月19日 21時10分16秒

なぎさひふみさん
詩的なコメントをありがとうございます。
心の揺れと淡い光を感じていただいて光栄です。
「光」という文字は入れていないのですが、読者の方になにか光を感じてもらえたらいいなぁ、と思って書いた作品なのでした。

KENさん
途中でトリックがばれてしまいましたか(さすがですね)。
16進法と古文との出会いがあれば、もう少し刺激的だったかもしれませんね(笑)
>この続きはもう少し長い文章で
光栄です。作者の性別は秘密ですよ。

いづみさん
うふふふふ、やられましたか~(やったぁ!)
最後に情景描写というのも、ちょっとやってみたいと思います。
(制服のところの情景描写で十分かな、と思っちゃったところもあります)
ご提案、ありがとうございます。

トゥーサ・ヴァッキーノさん
眠くなるのは5月かなぁ~、と思って5月にしたのですけど・・・
(好評だったようでうれしいです)
お題が制服でしたので、その部分は印象に残るようにしたくて、いろいろ考えました。
トゥーサ・ヴァッキーノさんの頭の中が、セーラー服の胸のところでいっぱいになったのなら、成功ですね。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年04月21日 19時24分17秒

>け、け、ける、ける、けれ、けよ…
>五月の陽気に、古文の呪文がすうっと溶けていく。
こういうところが好きですね。うまい。

また、
>成績優秀、容姿は…まあまあかな。
こういうところもうまい。おぼえておきたい。

雄介さんを賭けの対象に選ぶんですから、
京香さんの心でもなにかふくらみかけているのでしょうか。
なまえのせいで、ぼくの頭には鈴木京香が浮かんできて、
なかなか消えてくれませんが、それは悪いことではありません。

_ 蝶子 ― 2008年04月22日 11時27分06秒

これ「F」じゃなくてきっと「下」だぞーって思いながら読んでいたものですから「そっかーやられたー」と私もまた思いました。が、ふと、「下」だったらどんなオチになるのかを考えてみて思いつかず、全然オチないぞとちょっぴり落ち込みました。

ところどころに見える冴えた表現がステキです。「睡魔」と「小悪魔」もお上手です。ですが、最後の締め方はちょっと書き手さんが言葉に酔われてしまった印象があります。酔ってしまってうまく使いきれなくておとなしくまとめてしまった、という感じです。

_ でんち ― 2008年04月22日 19時07分26秒

私は授業中に先生の口癖(なんだったかなー)を数えていた
ことがあるので、写真みて分かっちゃったー。
でも、どうなるどうなると思ったら、居眠り3回もかよー。
振り向く回数かと思いましたよー。もっと多くなっちゃうかな。

_ F ― 2008年04月23日 08時27分49秒

ウラジーミル・コマ子さん
>なまえのせいで、ぼくの頭には鈴木京香が浮かんできて
”京香”って名前、なにか勉強ができそうな感じがしませんか?
ということで、”京香”にしたのですけど、やはりこの作品を書いている間、鈴木京香さんが頭に浮かんでは消え、浮かんでは消えの毎日でした。
>こういうところが好きですね。
いやぁ、のぼせちゃいます~

蝶子さん
>酔ってしまってうまく使いきれなくて
この作品を書いている時に、誰かに見られているような感じがしたのですけど・・・蝶子さんだったのですね(ニヤリと見られちゃいました)。次回の文章塾も、見られているんじゃないかと緊張しちゃいます。この主人公のように・・・(見事に見透かされてしまいました)。
>これ「F」じゃなくてきっと「下」だぞーって思いながら読んでいたものですから
この部分で十分”下”にオチてますから(笑)。”下”だったらどんな展開があるのか、考えてみたいと思います。

でんちさん
うわっ、いきなりトリック看破ですかっ!?
でもトリックが分かってから読むのって、どんな感じなんでしょう。
Fから正の字につながる話の流れを、どうなるかどうなるかと思いながら読んでもらえて大変うれしいです。

前回、でんちさんが写真をうまく使われていたので、そのマネをしたいなぁと思って、この作品を書いたんです。
昔、実際に使っていた古文の教科書を引っ張り出してきて、何度も何度も”F”のような”正の途中”のような記号を練習して書きました。
写真のおかげで、いろんな読み方をする人が現れて、とっても興味深いなぁと思っています。

_ 木の目 ― 2008年04月26日 10時43分16秒

次は、音楽だな。
前に音の埋め込みをでんちさんと考えたことがあるんですが
今のところ写真までにしか至っておりません。
映像ではなく、音と文章と写真の融合。
この作者とぎんなんさんには期待してるんです。
春の眠気を誘う陽気を音であらわすとか
男子高校生がときめくところの音を聞いてみたいです。
ドキドキ感がおもしろかった。

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