#022-0014「更けゆく夜に」SOIDさん2008年02月17日 20時09分58秒

  この都市に着いたのは夜も更けきった頃で、ホームに降りた途端、鋭い寒さに狼狽えた。とうとうここまで来 てしまった。
 気づいたら、逃げるように中央駅に向かっていて、南へ向かう一番手近な国際列車に乗り込んでしまったのだ。 列車は雪の大地を進み、シンプロンを抜けてロンバルディアを東進しこの都市に着いたのだ。だが、アルプスを越 えたというのに、この寒さで、冬の欧州をあなどるものではなかった。
 駅から電話すれば何とかなると思っていたのだが、どの宿も一杯で、電話の前で途方にくれていると、隣で携帯 をかけていた黒いコートを着た女性が、今夜はどこに泊るのか、声をかけてきた。私は咄嗟に身構えた。
「そんなに、構えなくてもいいのよ。無論こんな時間に声をかけられるとは驚きでしょうけれど、私にしてみれば 、こんな時間に独りで到着して宿を探しているあなたに驚いているだけなのだから」
 確かに迂闊だった。急な出発とはいえ、向こうで宿だけでも取るべきだった。だが、そんな時間はなかった。も う限界だったから。
 私は女性の顔をみた。流れる銀髪の持ち主で、微笑を湛えた顔は外国映画の女優のように凛としていた。
 急に嗚咽がこみ上げ涙が溢れ出た。愛していたはずの孤独は、この大陸では辛苦となって襲ってきた。故国での 孤独なんてたかが知れていたのだ。結局は誰かとの繋がりを求めていたということが今になって分った気がした。
 銀髪の女性はまた携帯で話し始めたが、程なく携帯を畳んで笑みを浮かべた。
「一部屋空いているそうよ。ともかくここは寒いわ。早くいらっしゃい」
女性はトランクを引いて先に立っていった。私は涙を拭きながら礼を言った。
 駅前の桟橋には明りを放つヴァポレットが客を待っていた、私達が乗り込むと、紺色のダウンを着込んだ船員が 舫を外し、ヴァポレットは耳がちぎられるぐらいの寒さをかき分け運河を下ったのだが、今だけは寒さも孤独も遠 ざかっていた。
(文字数:792)

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コメント

_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2008年02月17日 21時19分25秒

>ヴァポレット
ってどんな乗り物なんですか?
船なんだろうとは思うんですけど。
それはさておき、ずいぶんワケありな女の人ですね。

ちょっと気になったのは、
>外国映画の女優のように凛としていた。
っていうトコなんです。
外国のお話で、外国映画っていうことは、どこのことなんだろうっていうことです。

それはいいとして、
ボクには思いもつかない、大人の女性の大人の旅ですね。
見てる分にはうらやましいです。
色っぽい女の人なんでしょうね。
ボクなんか、相手にもしてくれないような(笑)

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年02月17日 23時39分21秒

へえ、辻邦生ってこういうの書いてませんでしたか。いい感じです。背景にあるできごとは夜霧のようにほのめかされているだけなんですけど。いい雰囲気です。帽子をぬぎます。

_ 作者 ― 2008年02月20日 03時21分03秒

コメント頂きありがとうございます。
>トゥーサ・ヴァッキーノさん
ご指摘頂いてありがとうございます。外国映画の点は、私の書き込み不足でした。ありがとうございます。
>ウラジーミル・コマ子さん
コメントありがとうございます。辻邦生でいうと「見知らぬ町にて」あたりでしょうか? 似たような感じの作品はあるかもしれませんが、もちろん、足下にも及びません。がんばります。

_ 慶 ― 2008年02月20日 10時43分41秒

ヨーロッパを旅行した時のこと思い出しました。
湖の辺のホテルか運河で渡るホテルでしょうか?
「アルプスを越えた」でなんとなく雰囲気が出てましたね。
旅情といい情景といい色々な場面が沸いてきます。
男性のひとり旅に女性が絡む作品なんて、まるで文豪の作品のよう発想だなと、作者さんのこの感性が羨ましい、です。

_ 慶 ― 2008年02月20日 14時25分02秒

訂正です。
「文豪」と言ったのですが、海外作家の発想のようだと、訂正します。
「南へ向かう一番手近な国際列車に乗り込んでしまったのだ。 」
列車が発車する時は、いつの間にか動いていたという感じでしたし、行き先の放送もなく静かでしたから、乗り違える、ことはあり得ることで、それからドラマが始まった、の着想もいいですね。

_ 作者 ― 2008年02月23日 04時03分18秒

>慶さん
コメントありがとうございます。過分なお言葉ありがとうございました。欧州の列車は何の前触れもなく動き出しますし、かつては機関車が客車を牽引するタイプが多かったので、モーター音もなく静かですよね。そうした些細な違いが驚きだったのを覚えています。

_ つとむュー ― 2008年02月24日 00時44分46秒

なかなか雰囲気のある作品でした。
スイス在住の主人公が国際列車に乗ってベネチアに行く、という話ですね。
僕も最初、「外国映画」の「外国」とはどういうことなのだろう?と感じました。ここは単に、「映画の女優のように」でもいいんじゃないかと思います。
イタリアといえば、男性が女性に気楽に声をかける風土。逆に日本では、もの静かであることが美徳とされる風土と言えるでしょう。そんな日本人のようなスイス人?がイタリアに行った(らどうなるんだろう?)というような印象を持ちました。

_ なぎさひふみ ― 2008年02月25日 00時39分52秒

 これが実話であることを祈りたい。とてもこんな出会いが、救いがあるとは思えないからです。それほど私はペシミズムな考えであったことが分かりました。日頃、いつも大胆にと、想像を超越する想像とは何かと(すみません、ほんの少し?ばかり言い過ぎ)夢見ているのですが。この現実とは何かと、私は理事整然と余りに硬直して考えていることにも愕然としたのです。現実という真実に乾杯。

_ おっちー ― 2008年02月25日 08時39分22秒

 いい雰囲気です。
 僕にはこういうムードのある作品は書けないですねー。
 いつかこの作者さんほどのムードを出すことは無理でも、自分なりの落ち着いた、地に足の着いた雰囲気のある作品を書けるようになりたいものです。
 切り取り方が大人の味わいですね。

_ でんち ― 2008年02月25日 22時02分26秒

大人な世界。
と書こうと思ったら、わたしもおっちーさんに同じく。

_ 木の目 ― 2008年02月25日 23時20分14秒

わけありの人なんでしょうね。
なんだかスティーブ・マックィーン主演の「ゲッタウェイ」を思い出しました。

_ 作者 ― 2008年02月26日 04時54分30秒

>つとむューさん
コメントありがとうございます。「映画」云々は、失敗でした。反省しております。
>なぎさひふみさん
コメントありがとうございました。実話ではありませんが、下敷きはあります。現実はかけずとも真実を書きたいと思っています。
>おっちーさん
コメントありがとうございます。私も地に足のついた作品を書きたいと思いますが、まだまだ修行が足らないようです。
>でんちさん
コメントありがとうございます。大人な世界が良いのか、そうじゃない世界が良いのか、だんだんよく分らなくなってきました。悩みます。
>木の目さん
コメントありがとうございます。設定上わけありなのですが、それを書くわけにも行かず、という感じです。あまりにぼやかしすぎたかと反省しております。

_ BHW ― 2017年04月14日 01時46分56秒

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_ leg an foot pain ― 2017年07月04日 03時14分10秒

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