#022-0013「雪だるま」うららさん2008年02月17日 20時08分53秒

 久しぶりに大雪が降った次の日、誰が作ったのか公園の隅に大きな雪だるまがあった。昨夜とは打ってかわった ような青空で、突き出た枝先に幾らか残った枯葉が時折カサカサ音を立てていた。
 その日は日曜だったので、昼近くになると親子連れや子供たちで公園は賑やかになった。雪だるまを見つけた子 供たちは、近くの柵に掛けてあった忘れ物の毛糸の帽子をかぶせたり、左右に小さな雪だるまを作り、ビンの蓋や 木の枝で目鼻をつけた。少し大きな子供たちは、雪だるまと肩を組んだり、両側からキスをするようなポーズをと っては携帯の写真に納まった。そのうち、雪合戦の流れ玉が飛んできて雪だるまの右頬に当たり、いびつなふくら みをこしらえた。
 三々五々子供たちが帰って行く頃には、雪だるまは一まわり小さくなったようだった。


 夜になると再び寒さが戻ってきた。鋭い鎌のような月が、雪の上に大小の雪だるまの影を作り、入り乱れた足跡 を冴え冴えと照らしていた。と、公園の入り口から黒い人影がふらふらと歩いて来た。裏の公衆便所に行こうとし て雪だるまにぶつかりそうになった影は、悪態をついて右側の小だるまを蹴り崩した。そして帰り道にもう一蹴り 。大きな雪だるまは少し左に傾き、横腹には足がはまった深い穴が出来た。


 その後も何日か晴天が続いた。公園の前の道は引っ切り無しに車が走り、奥の方に立つ雪だるまにも黒い粉塵が 降り注ぐようだった。陽光をはね返す輝きを失った表面に、木の枝から滴る雪解け水が溝となって流れ落ちた。
 やがて公園のベンチがすっかり乾くと、ベビーカーを押した母親や杖をついた老人が、少し腰を下ろしたり立ち 話をして行くようになった。日中の暖かさと夜の寒さを繰り返した雪だるまは、その頃には薄汚い円錐形の氷の塊 になっていた。


 ある朝、子犬を連れた女性がやってきた。女性は公園の隅の水溜りからぐしゃぐしゃになった毛糸の帽子を拾い 上げると、傍らの柵に引っ掛けていった。
(文字数:800)

名前:

コメント

_ トゥーサ・ヴァッキーノ ― 2008年02月17日 21時25分47秒

何気ない日常を、切れ味のいいナイフで、それとなくサラリと切り取って皿に繊細に盛り付けたって感じの文章ですね。
絵のようで、写真のようで、何気ないだけに訴えかけてくるものが多いです。
うまいことやりますね。
意識しないと、日常は描けませんから。
でも、意識しすぎると、また描けなくなっちゃう。
日常が一番むずかしいですね。
勉強になります。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年02月19日 12時59分32秒

描写だけのようなんですが、冷たいかんじ、むしろコワイかんじがします。ある過酷な競技がおわって、不幸にも死人が出た。騒ぎがべつのところへ移動して静かになったところで、競技場を整えなおす男、みたいな(笑)。淡々としていながら悪意がありますね。語り手はなにもしていないのに。不気味で不思議な作品です。

_ 雪だるま作者 ― 2008年02月19日 22時03分33秒

トゥーサ・ヴァッキーノ様
早々とコメントをありがとうございます。

>何気ない日常を、切れ味のいいナイフで、それとなくサラリと切り取って皿に繊細に盛り付けたって感じの文章ですね
とてもきれいな表現で、コメントも文学になるんだと感心しました。

「雪だるまの周囲で繰り広げられる人間の日常を、雪だるまを擬人化させずに淡々と書く」というのが一つのテーマだったので、その描写に注目して下さって嬉しいです。

ウラジーミル・コマ子様
>冷たいかんじ、むしろコワイかんじがします
スルドイですね。違和感の原因は、文章に全く感情が含まれず描写に徹しているからだと思います。
「雪だるま」というと、人間はその愛らしい形や人間が作ったという親近感から、擬人化したり感情移入したりしがちですが、実は単なる雪の塊なわけで、その「雪だるま」と人間をの関係を両方を見下ろす視点で客観的に書いたつもりなので、「悪意」はなかったのですが(笑)、冷たく不気味な感じになったのでしょうね。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年02月20日 13時56分48秒

作者さま
悪意といったのはいいすぎでしたが、
粉塵をあびつつ徐々に小さくなっていく雪だるまが
>薄汚い円錐形の氷の塊
となっているので、おや? と思ったのです。
淡々と書くなら、もっとなんというか、
印象的なバイアスをかけない表現の方がベターではないかと。
たとえば、「汚れた」とか、「粉塵が縞をつくった」とか……、
うまい表現が思いつきませんが(笑)。

_ 作者 ― 2008年02月21日 05時38分19秒

ウラジーミル・コマ子様
再度のコメントありがとうございます。「薄汚い」の件は気づきませんでした。ご指摘ありがとうございます。なるほど、です。

 実は、この文章はある詩に触発されて書いたものです。その詩は、一般に「内的認識を反映させずに物を見る」ことがテーマだと解釈されているようなのですが、風景を描写した部分の語彙の選択に、その風景を美しいと捉えた作者の内的認識が既に反映されているのではないかと疑問を抱いたので、それを避けるとどうなるか実験してみようと思ったのです。
 しかし、好意的なリアクションを避けようとするあまり、逆のバイアスが忍び込んでしまったようです。そう考えれば、三日月を「鋭い鎌」と言うのもその類かもしれません。
 色々なものに自己解釈を押し付けて(たとえば何を雑草と呼ぶかなど)、その運命すら決めてしまう人間は何と勝手な存在かと思っていたのですが、自己を投影せずに物を見るということは非常に難しく、また無邪気な子どもの様子を描きながらそれを無視したような文章も味気ないものですね・・・というのが実験の結論でした。

_ でんち ― 2008年02月22日 19時44分48秒

雪だるまの飾りつけで右上の雪だるまになるのか、う、やられたと思ったら、違いました。
そんな次元ではない大人な冬の物語でした。ラストが好きです。

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年02月23日 01時49分23秒

生まれつき全盲のひとが、
ある程度の年齢になって手術で目が見えるようになったとき、
立方体と球体とを視覚だけで識別できるか?
といったなんとかクス問題というのがありました。
答えは否のようでした。

全盲時代の体験としての触覚で立方体と球体は区別できるけれど、
その際の触覚知が、
目が見えるようになって以後得た視覚からの情報と対応しているのだ
ということを経験していないから、
というのがその理由だったでしょうか(うろおぼえです)。

知覚システムが十全に機能するためには、
視覚・触覚など複数の感覚から得られた相異なる情報が
おなじ一つの対象に起因するものであるという経験を
それこそモノゴコロつく以前からしている必要があるのでしょう。
かりにこの考え方がただしいとしたら、
「内的認識を反映させずに物を見る」ことは
生理的に不可能ということになりそうです。

「内的認識を反映させずに物を見る」ことと
「内的認識を反映させずに物を書く」こととは
同じことではないでしょうから、
「内的認識を反映させずに物を書く」というのであれば、
この限りではないのかもしれません。
人間世界についての経験的認識をいっさい持たない機械でも
フツウに通じる文章をつくっていますし(笑)。

_ 作者 ― 2008年02月23日 05時33分00秒

でんち様
コメントありがとうございます。
>飾りつけで右上の雪だるまになるのか
そうか、そんな手もありましたね。次回は背景にも気を配らなきゃ(笑)


ウラジーミル・コマ子様
再々度の丁寧なコメント、ありがとうございます。

全盲の人の話、人間の認識というものについて示唆に富んでいて興味深く読ませていただきました。ただ、私の「認識」という言葉の使い方が不用意だったために、意図したところがちゃんと伝わらなかったような感じがします。ここで、しつこく下手な説明をしてまたコメントを強要することになるのも申し訳ないので、もし気が向かれたら、前のコメントに書いたその詩をご覧になってみてください。

Wallace Stevens の "The Snow Man"という詩です。
http://www.writing.upenn.edu/~afilreis/88/stevens-snowman.html

_ ウラジーミル・コマ子 ― 2008年02月23日 13時32分05秒

ローティーンのころから一語一語にフリガナをつけて親しんできたので、わっと7が並んだような懐かしさをおぼえましたが、ぼくは見当違いのコメントをしたかもしれません。ふと、もしかしたら作者さまはカフカ賞作家みたいにはじめ英語で書いて、それを日本語に直すようにして「雪だるま」を書かれたのかもしれない、と思いました。問題意識の高さとそれと矛盾しない遊び心にも似た実験精神にあらためて恐れ入っているところです。今後ともよろしくお願い致します。

_ 作者 ― 2008年02月24日 12時34分48秒

ウラジーミル・コマ子様
何度もお運びいただき本当に有難うございます。若い頃の不勉強が祟り、今更ながらうろうろと日本語の裾野を歩き回ってみているところです。今回何度も丁寧なコメントを頂き、大変勉強になりました。こちらこそ今後ともよろしくお願いいたします。

_ おっちー ― 2008年02月24日 14時20分54秒

 ひえ、話題の詩が載っているURLに飛んだら、こりゃ英語じゃないですか。早々に退散いたしました。
 あとで時間のあるときにもう一回訪れて読もうとしてみます。

 日記のような文章かなと最初は思ったんですが、これは日記じゃ収まらない。作者さんにしか書けない視点、表現です。
 コメントを読んでさらにこの作品に興味がわきました。
 もう一回読んでみまーす。
 ではでは。

_ つとむュー ― 2008年02月24日 21時24分52秒

雪だるまを、定点カメラで撮影していたような作品だと、思いました。
雪だるまがだんだんとけていく様子に、寒さというよりも、暖かさを感じました。

_ なぎさひふみ ― 2008年02月25日 00時30分27秒

 夢見る喜び、噛み締める。寒さに震えて遊びの夢見。対応の夢と創造は、追いかけあいながら、次の夢の為に消えゆくのかもしれない。変化とはいつも儚いが、それこそ永遠の姿かもしれない。

_ SOID ― 2008年02月25日 21時16分31秒

いいですね。最後に水溜りから毛糸の帽子を拾い上げるあたり、本当にすばらしい。雪だるまが解けてゆくという、せつなさがたまらなく感じられてきました。

_ 作者 ― 2008年02月25日 23時01分16秒

おっちー様
丁寧にコメントを読んだ上に、詩のサイトまで行って下さったとのこと、本当に有難うございます。たまたまその詩と関わりが出来たので、ちょっと遊んでみました。コマ子さんのコメントのお陰で自分が何をやろうとしていたのか理解が深まったように思います。

つとむュー様
>雪だるまを、定点カメラで撮影していたような作品だと、
うまい表現だなあ。
この文章の雪だるまがどこまでも雪の塊であり続けようとするためか、自分で読み返すと何かヘンな食感のようなものが残るのですが、確かに着実に移り変わっていく自然の「暖かさ」は感じますね。

なぎさひふみ様
>変化とはいつも儚いが、それこそ永遠の姿かもしれない
ウーン、深い。仏教の悟りみたい。

SOID様
ラスト、褒めていただいて嬉しいです。これを書くために、雪だるまに帽子をのせる場面を割り込ませるのに苦労しました(笑)

_ 木の目 ― 2008年02月25日 23時12分00秒

すみません。
どうしても文章塾の最初のキャラ、ゴロゴロを思い出してしまいました。
哀しくて素敵なお話です。

_ 作者 ― 2008年02月27日 05時03分42秒

木の目様
コメントありがとうございます。そう言えば最近とんとゴロゴロ見かけませんね。愛らしいキャラだけに、たまに出てこないと寂しいですね。でんちさ~ん

_ でんち ― 2008年02月28日 01時02分51秒

(舞台そでから転がってくるものあり)
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ。。。。
ジャーン。でんちでーす。アルカリ系でーす♪

うららかな季節になってまいりました。ゴロゴロ日和。
ゴロゴロを覚えていただいてありがとうございまーす。

_ うらら ― 2008年02月28日 08時20分14秒

ゴロゴロ様
ゴロゴロちゃんと書きたいところですが、確か神様ですからやはり「様」ですよね。早速のお越しありがとうございます。また次のゴロゴロ物語が投稿されるのを楽しみにしていま~す。

_ 馥 ― 2008年02月28日 23時55分52秒

子供の頃から雪だるまは、何個か作ったり、公園や道端よそ様のお家の庭などに出来ているのを見ていましたが、融けていくまでの景色など気にも留めないでいました。最後にべったりつぶれた雪だけぐらいを見ていたようです。
なんと感受性の無さでしょうか。
今度雪だるまを見たら、その気持ちのなってみようと思いました。

_ うらら ― 2008年02月29日 01時36分22秒

馥様
コメントありがとうございます。私は子どもの頃、何とか雪だるまが溶けないようにと、表面を手やスコップで叩いて固くするという無駄な努力をした覚えがあります。最後の一言に、やはり馥さんらしい優しさを感じました。

_ BHW ― 2017年04月13日 22時43分14秒

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_ manicure ― 2017年05月04日 07時54分32秒

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