#018-T001「崩壊」つとむューさん2007年08月06日 00時11分14秒

カシャッ
 
 駅からの夜道を急ぐ涼木理子は、足を止めて耳を澄ました。街灯に群がる虫の羽音がパタパタと住宅街に響く。
 確かに変な音がしたのに…
 額にじっと汗が浮かぶ。蒸し暑い梅雨の終わりは、理子の一番嫌いな季節。早くマンションに帰って、冷房の効いた部屋でビールを楽しみたい。まとわりつくスカートと高いヒールに辟易していた理子は、新たな邪魔者に眉をひそめた。
 盗撮されてる?
 理子は後ずさりながら紫陽花の生垣の陰に身を寄せた。が、その時…

カシャッ

 えっ、また?
 理子は携帯電話を取り出す。
「もしもし、美和?」
「どうした理子、情けない声出しちゃって」
 美和の明るい声が、ぽっと理子の心を照らした。
「今、家に帰る途中なんだけどさ、盗撮されてるみたいなのよ」
「盗撮?」
「それでね、暗いところに隠れてるんだけど、それでも撮られちゃうの」
「もしかして理子、白い服着てない?」
「よくわかるね。白のワンピだけど」
「だったらきっとそれ、赤外線カメラだよ…」
 赤外線カメラを使うと白い服が透けてしまう。そんな美和の説明に、理子は背筋が寒くなった。
「隙を見てダッシュで逃げるのよ」
「無理だよ、今日のサンダル、ヒール高くって」
「バカね、そんなの脱いじゃえばいいでしょ」
 確かに美和の言う通りだ。サンダルを脱ごうと理子が一歩踏み出したその時…

カシャリ

 もういい加減にして!
 素足になった理子は脱兎のごとく走り出した。次の角を曲がるとマンションが見えてくる。あと百メートル。理子は走りながらバッグから鍵を取り出すと、入り口で素早くロックを解除してエレベータホールに駆け込んだ。ここまで来れば誰も追って来れないはず。ほっとした理子は、履こうとしたサンダルからヌメリとした異様な感触がすることに気がついた。

キャーァァァッ!

 驚いてサンダルから手を離す。
 転がり落ちたサンダルには、親指くらいの太さのカタツムリが三匹、ヒールに串刺のまま悲しそうに理子を見つめていた。
(文字数:799)

コメント

_ ヴァッキーノ ― 2007年08月06日 06時50分34秒

自転車のタイヤでカタツムリを牽いてしまったことがあります。ゆっくり歩くカタツムリを高速で走る自転車が潰すんだから、あぁ運命なんだなぁと思ったもんですが、ハイヒールに3匹串刺し!
きゃーーーー!

_ つとむュー ― 2007年08月06日 12時36分18秒

ヴァッキーノさん
夜道を歩いていると、時々カタツムリを踏み潰してしまいます。あれ、大嫌いなんです。本当に恐怖なんですよ、雨の夜道は・・・

ところで、今回は、仮面舞踏会かもしれないと想定してこれを書いてみました(蓋を開けてみると違ったので、すぐ投稿しちゃいました)。やはり、僕の作品ってことはバレバレですかね?

_ おさか ― 2007年08月06日 20時22分11秒

絶対誰かやると思いましたけど、つとむューさんでしたか!虫ネタっ
串刺しカタツムリ・・・・あの音は全部・・・・・いやあああ(泣)
「盗撮される」というイマドキの怖さと、昔ながらの「ムシ」の恐怖がうまくからみあって、一粒で二度おいしい話になってると思います。ひー。

_ よっぱ ― 2007年08月06日 20時59分23秒

面白かったです。きもちわるいねぇ(笑)
いいオチだったと思います。

_ 木の目 ― 2007年08月06日 23時35分10秒

うう、なぜかカタツムリが悲しい。
盗撮は濡れ衣なんだろうか。
実はカタツムリを串刺しするたび、カタツムリの目が赤外線小型カメラになっていて、理子の恐怖に震える表情を捉えているんだ。

_ つとむュー ― 2007年08月07日 01時17分06秒

おさかさん
ほら、ね? 想像しちゃうと絶叫したくなるでしょ。ああ、恐い~

よっぱさん
きもちわるいですよねぇ。コメント書いてると、僕も想像しちゃいますよ、ああ・・・やめてくれ~

木の目さん
この話、カタツムリの身になっても、これまた恐いです。カタツムリ型小型カメラ・・・・、うーん、いいかもしれない・・・

_ なぎさひふみ ― 2007年08月07日 05時51分42秒

 日常に潜む危うい存在。感受することの淡い投影。見捨てられながら、無視できない過敏な潜在的現実。
 何もなく、すべてが幻惑され、すべてを感じることの出来ない密やかな憂鬱。
 衝突するいのちの響きはいつも唐突な感情に導いて、出会いの衝撃に定めなき運命の支配から抵抗するようだ。

_ mukamuka72002 ― 2007年08月07日 14時48分02秒

 腹が減ってる時に読んだので、かたつむりが旨そうに思えました。
しかし良くできてる、名作ショートショート集に載っていても、なるほどと思える作品。
なんか最近のつとむューさん毎回腕上げてる感じ。

_ 鉛筆カミカミ ― 2007年08月07日 22時21分34秒

 これファンタジーですよね。SF?

 日常の中のありえない一場面が見れて楽しかったです。

 そう思うとより良く見えてきます。
 mukamukaさんの仰る通りよく出来ています。


 素直な感想↓

 子供の頃、素足で死ぬ寸前のゴキブリ踏んでしまったことを思い起こしました。
 気持ち悪かった。最悪だった。

 …でも、それにしてもカタツムリは可哀想だよーっ

_ つとむュー ― 2007年08月08日 06時33分44秒

なぎさひふみさん
>日常に潜む危うい存在
昨日は、大木の周りを、ある物を踏まないように慎重に歩きました。そしたらいましたよ、木に向かって歩くセミの幼虫が。昨晩は、羽化の観察会でした。

mukamuka72002さん
>腹が減ってる時に読んだので、かたつむりが旨そうに
げっ!?
でも、mukaさんに「腕上げてる」と言われると、大変うれしいです。
今回は、過去の受賞作品を読んで、ちょっと勉強してから書いてみました。1年前には気付かなかった皆さんの作品の良さが、少しずつ分かるようになっている気がします。文章塾、本当にいい修行になっています。

鉛筆カミカミさま
>素足で死ぬ寸前のゴキブリ踏んでしまった
うげぇっ!
そっちの方が恐いです。
きっと、黄色い汁とかが出て大変な目にあったことでしょう。うええ、想像したくない~!
みなさん、足元には気をつけましょう!

_ 実験室、「承」のリレー  あと2作品お待ちしています ― 2007年08月09日 13時46分18秒

実験室、「承」のリレーは、あと2作品お待ちしています。
http://bj-labo.asablo.jp/blog/2007/07/21/1671123

mukaさん、宣伝ありがとうございます。
つとむューでした。

_ マロ ― 2007年08月09日 23時22分46秒

最初はよく分からなかったのですが、何回か読んで、なるほど、と。カタツムリを踏んだ時の音を、シャッターの音と聞き間違えていたのですか。うわー、気持ちわる。気持ち悪さを強調して終わる、読後感がたまりません。

夜道歩いていて、カタツムリ踏みます?さすがにその経験はないなぁ。あ、足元見ながら歩いているからね、慎重派だから。つとむューさんは、結構あわてん坊なんだろうか。

_ ukihaji-12 ― 2007年08月10日 12時11分52秒

夜道での一人歩き、恐怖感とおちがお見事です。好い作品だと思います。起承の部分が全体を盛り上げている様に思います。因みに最近始った新聞の連載四コマ漫画、作者の弁として起承転結を意識して画いているそうです。プロでも起承転結が、根源にあるようです。

_ つとむュー ― 2007年08月10日 19時55分13秒

マロさん
>夜道歩いていて、カタツムリ踏みます?
踏みます(きっぱり)
>結構あわてん坊なんだろうか。
結構ではなくて、”かなり”です。娘に、「パパのおっちょこちょいが遺伝してて、ヤダなぁ・・・」と、いつもぼやかれています。

ukihaji-12さん
起承転結ですか・・・。実験室でリレーをやっている効果が出たのでしょうか。mukaさんのアドバイスで、リレーに起承転結を導入してから、ずいぶんと内容がはっきりするようになりました。
ukihaji-12さんも、ぜひリレーにご参加下さい。今、僕の頭の中は、起承転結の「承」で一杯です。

_ KEN ― 2007年08月10日 22時41分37秒

ナメクジみたいなのにとても弱いので、読み終わった後意識を失いそうでした。カシャという音は結局想像だったのでしょうか。と思って、みなさまのコメントを読んでみると、カタツムリのつぶされた音なんですね。。。
もっと気持ちが悪くなります。。。
(まだ盗撮の方がいいのですが、崩壊よりも倒潰かしら)

_ 鹿王院知子 ― 2007年08月10日 23時26分09秒

つとむさんの日常って
かなり面白そう
かたつむりを踏むって今の私の生活では
ありえないんですね
だから想像できないんですよね

これは本当に誰も思いつかなかったと思います
すごいです
ものすごいアイデアなのだと思います

_ うらら ― 2007年08月11日 03時30分13秒

最後までいってから読み返すと、「紫陽花の生垣の陰に身を寄せた」なんて、しっかりカタツムリの伏線も張ってあったんですね。白いワンピの話ですっかり引っかかってしまいました。
虫の羽音が聞こえるくらい静かな夜更けの道に響く「カシャッ」、緊張感が走ります。ホッとするような、ぞっとするようなオチが、キモコワイお話でした。

_ SOID ― 2007年08月11日 19時29分14秒

今回もつとむューさんの作品を楽しみにしていました。今回も名人芸的な想像力に脱帽です。いいですね、こういう肩すかし。私はとても大好きです。最初読んでいてこういう結末になるとは全く思いませんでした。鮮やかな展開だと思います。先月の「すみれ座」でつとむューさんのファンになることが確定しましたので、次回も楽しみにしております。

_ つとむュー ― 2007年08月12日 01時33分11秒

KENさん
>崩壊よりも倒潰かしら
前回のマロさんの作品のタイトル「略奪」がカッコ良かったので、僕もそんなタイトル付けたいなと思って、このタイトルにしました。
語彙が乏しくって、「倒潰」ってタイトル、思いつきませんでした。「崩壊」というタイトルを付けた時に、”カシャ”という音が何かを壊した音と多くの人が思うかな、と心配してましたが、意外とそうでもなさそうなので、「倒潰」ってタイトルもなかなかいいなと思っています。

鹿王院知子さん
ええっ、皆さん、雨の夜にカタツムリを踏んだことが無いのですかっ!
田んぼのあぜ道で昼寝をしてる蛇を踏むのと、同じくらい恐いですよ。
いやあ、雨の夜のカタツムリの恐怖は、日本国民の共通認識だと思っていましたが、僕の独りよがりだったのですね。ちょっと冷や汗が・・・

_ つとむュー ― 2007年08月12日 01時53分24秒

うららさん
紫陽花に気づいていただき、ありがとうございます。
実は、理子は紫陽花の周辺でしか、カタツムリを踏んでいないのです。だって、住宅街がカタツムリだらけだったら、そっちの方が恐いですから・・・・・(ああ、想像するだけでも恐い)

SOIDさん
今までのSOIDさんの作品に、好き勝手なコメントを書きまくっていたのに、僕の作品を楽しみにしていただき本当に恐縮、いや光栄です。
>名人芸的な想像力
自分が体験した恐い思いを、素直に書いただけなんです。マロさんや鹿王院さんのコメントのように、僕がそういう体験をしていることの方を驚くべきかもしれません(泣)

_ くれび ― 2007年08月18日 00時29分09秒

これ、面白い!
カタツムリ最近見ないと思ったらこんなところに!
意表をつかれました。
崩壊…ってカタツムリが、ってこと?

_ つとむュー ― 2007年08月18日 15時24分34秒

くれびさん

タイトルは、コメントの通り「カタツムリが崩壊」という意味ですが、
何か漠然とした恐怖も表現できたらと、思っていました。
(当初のタイトルは、「カシャ!」だったのです・・・)
でも、やはりちょっと幅広だったかも。
KENさんのコメントにある「倒潰」も良かったかな、と思っています。

これからしばらくの間、夏休みです。

_ 蝶子 ― 2007年08月19日 20時46分44秒

うまいなあ。カタツムリには気の毒ですが、まったく秀逸なアイデアです。
途中、紫陽花が出てきましたね。最後まで読んで、ああ、そうかと思いました。
状景や人物の身なりなどから感じる夏らしさと、イマドキの恐怖感がうまくマッチしています。

_ ぎんなん ― 2007年08月20日 20時59分18秒

カ、カタツムリ………(悶絶)
これは想像できませんでした。しかも3匹。しかも見つめてるーー。きゃあああああああ。叫びつつ、面白かったですー♪
しかし、カタツムリ、踏みますか? うちの周りはそこそこ田舎ですが、普段は踏むどころかほとんど見かけません。踏むほどいるなんてうらやましいような、双方可哀想なような……。

どうでも良く、かつ、つまらない突っ込み。
赤外線カメラって「昼に」写すと透けるんじゃなかったですかね。だからビデオカメラなんかは昼に赤外線機能が使えないようになってる。あと、確か透けるのは黒だったかと。美和が勘違いしてたんですね、きっと。

_ つとむュー ― 2007年08月26日 21時16分40秒

蝶子さん
お忙しいところコメントありがとうございます。
ブログにも変なことを書いて、すいませんでした。
次回からの復帰、お待ちしております。

_ つとむュー ― 2007年08月26日 21時25分15秒

ぎんなんさん
ツッコミありがとうございます。
このツッコミ、もっと沢山の人から来るのではないかと思っていましたが、ちゃんと突っ込んでくれたのはぎんなんさんだけでした。
ネットで調べると、ぎんなんさんのコメントの通りみたいです。が、このあたりの知識って、やけに詳しいと実際にやってんじゃないかと思われるので、うろ覚えの方がいいかも、と個人的には思っています。
まあ、美和が勘違いしてくれれば、何でもいいんです。赤外線でも、紫外線でも、X線でも・・・。知らないところで監視されている、という恐怖感が出れば、と思っておりました。

カタツムリ、踏みますよ。恐いです、本当に。

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